経済産業省 消費者向けEC市場は24.8兆円で前年より2.1兆円拡大 物流の2024年問題、セキュリティーへの懸念など課題も残る経済産業省 

 経済産業省は、「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」を実施し、日本の電子商取引市場の実態等について取りまとめている。同報告書では、市場規模を、BtoC、CtoC、BtoBの3つの分野に分類し分析する。それによると令和5年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、24.8兆円(前年22.7兆円、前々年20.7兆円、前年比9.23%増)に拡大した。BtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模についても、465.2兆円(前年420.2兆円、前々年372.7兆円、前年比10.7%増)に増加した。EC化率は、BtoC-ECで9.38%(前年比0.25ポイント増)、BtoB-ECで40.0%(前年比2.5ポイント増)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展している。電子商取引市場の動きからは、その課題や潮流が伺える。BtoCおよびBtoBの市場規模についての調査報告から抜粋して紹介する。

国内インターネット利用動向
 国内においてインターネットは既に企業の経済活動や国民の社会生活に深く根付いている。総務省の通信利用動向調査によれば、2022年時点でインターネットの人口普及率は84.9%だった。インターネット人口普及率は2013年より横ばいが続いていたが、2019年には9割に迫るところまで増加した。背景には、全年代でのインターネット利用が伸長したことが考えられる。
 インターネット人口の普及率は今後も引き続き高い水準で推移するものと想定される。
 なお、主な情報通信機器の保有状況(世帯)に関する統計データをみると、この数年、スマートフォンの利用が急激に拡大し、2022年は世帯あたりの普及率が90.1%と最も高い数値となっている。対照的にパソコンの保有率は下落傾向にあり、2022年は69.0%だった。EC事業者をはじめ、インターネットビジネスを展開する事業者にとって、スマートフォンを第一に想定したコンテンツやサービス作りが重要な時代になっていると言える。

国内BtoC-EC市場について
 BtoC-EC市場規模の市場については、個人消費における全ての財(商品)、サービスのなかでインターネットを通じて行われた取引の金額を調査している。なお、「何がどれだけ販売されているのか」を明確化するために、物販系分野、サービス系分野、デジタル系分野の3つのカテゴリーにわけて報告している。

 それによると、物販系分野は前年より6,763億円増加して、14兆6,760億円となった。増加率は4.83%で、EC化率は9.38%となり前年より0.25ポイント増加した。サービス系分野は、前年より1兆3,692億円増加の7兆5,169億円で、前年比22.27%の増加だった。デジタル系分野は、前年より532億円増加した2兆6,506億円で、前年比2.05%の増加だった。
 3分野合計の国内BtoC-EC市場規模は、24兆8,435億円となり、前年比で2兆986億円増加した。

EC市場と宅配市場の現状と課題
 なお、物販分野のBtoC-EC市場規模の拡大に伴い、宅配便取扱個数も増加している。国土交通省が毎年発表している国内における宅配便取扱個数の推移によると、令和4年度(2022年度)は50億588万個で、平成21年度(2009年度:31億3,700万個)と比較して、約60%の伸長率となった。
 大手宅配便事業者3社を合計した2020年から2023年(共に暦年)の宅配便取扱個数の推移をみると、2022年の46.9億個に対し、2023年は46.4億個で前年比約1%減少した。
 その背景には、消費者のリアル回帰による宅配需要の弱含みをはじめ、原材料やエネルギー価格上昇に伴う物価上昇、物流の「2024年問題」等に対応した価格改定の影響などがあると考えられる。結果として、宅配大手3社ベースで見ると低調な宅配便取扱個数につながったと推察される(なお、数値にはEC以外の宅配便も多く含まれている)。
 加えて、大手ECプラットフォーム事業者の中には、大手3社の宅配便事業者以外の特定の運送会社と契約し、最終拠点からエンドユーザーへの物流サービス(ラストワンマイル)を委託しているところもある。さらに、BOPISの広がりやDtoC(Direct to Consumer)としてメーカー自身が配送を行っているケースも少なくない。
 宅配大手3社の宅配取扱個数が減少しているにも拘らず物販系BtoC-EC市場が伸長している背景としては、こうした宅配大手事業者経由以外の配送手段が広まってきていることも一因として言えるだろうと分析している。
 また、物販系分野のEC市場規模拡大に伴い、この数年、宅配便の再配達率の増加が社会問題化している。国土交通省は2017年10月より年2回の割合で再配達率に関するサンプル調査を行っているが、その調査結果によると2019年10月調査時点での再配達率は都市部16.6%、都市部近郊14.3%、地方11.5%で、2022年10月調査時点では都市部13.0%、都市部近郊11.2%、地方9.9%であった。

 2023年10月調査時点では都市部12.1%、都市部近郊10.7%、地方9.2%となり、全体として2019年比及び前年比で都市部、都市部近郊、地方共に減少という結果となった。
 2019年と比べて再配達率が改善している要因としては、新型コロナウイルス感染症拡大を契機に、消費者の在宅率が向上した結果、再配達率が下落したことが関係していると考えられる。他方、2023年は前年と比べると消費者の外出機会が増加している状況にも関わらず、前年比で再配達率が改善している。その背景には、店舗受け取りや宅配ロッカーの利用といった「クリック・アンド・コレクト」が徐々に浸透してきていることや、“置き配”が一般化していることも関係していると考えられる。
 トラックドライバー不足が益々深刻化する物流業界において、再配達率の改善に資する取組は引き続き重要である。

物流の2024年問題がコストに影響
 このような中、物流の「2024年問題」が2023年に大きく話題になった。物流の「2024年問題」とは、トラックドライバーの残業規制などの強化によって輸送力が不足する問題を指す。
 2019年4月から順次施行された働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が、2024年4月からトラックドライバーなどにも適用され、年間の時間外労働が960時間に制限される。また、これに合わせ、ドライバーの拘束時間や休息などの基準を定めた厚生労働大臣の「改善基準告示」も見直され、2024年4月からトラックドライバーの拘束時間が短縮されるとともに1日の休息時間が拡大。結果的に、今まで1人のドライバーが1日で運べていた長距離輸送が不可能になるなど、物流に深刻な影響が出ると懸念される。

 物流の「2024年問題」により物流コストが増加するため、2023年には大手宅配事業者を中心に価格改定の動きが見られた。それに伴い、物流コスト上昇などの影響がEC事業者にも及び、各社は送料の見直しや送料無料バーの引き上げ、梱包の工夫等で物流コスト上昇分を転嫁・相殺するなどの対応に追われた。
 また、政府より物流の「2024年問題」や中長期にわたる輸送力不足の解消に向け2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」が、そして同年10月には「物流革新緊急パッケージ」が発表された。これらの中では、①物流の効率化、②荷主・消費者の行動変容、③商慣行の見直しに関する施策が示されている。

情報セキュリティへの根強い不安
 ECにおける安全、安心な取引のために、個人情報が漏えいしないよう万全な情報セキュリティ対策を行うことは必要不可欠である。インターネット利用において「不安を感じる」または「どちらかといえば不安を感じる」と回答した個人に対して、不安の内容を尋ねたアンケート結果(複数回答)をみると、「個人情報やインターネット利用履歴の漏えい」が88.7%となり、個人情報の漏洩に対する懸念が相対的に非常に高い。
 特に氏名、住所、電話番号、生年月日といった情報の漏えいは消費者への影響が大きく、中でもクレジットカード番号は金銭的な被害に直結するため、最も危険である。
 また「個人情報やインターネット利用履歴の漏えい」に次いで、不安を感じる回答として数が多かったのが「コンピュータウイルスへの感染」及び「架空請求やインターネットを利用した詐欺」である。「コンピュータウイルスへの感染」は近年、金銭的利益を目当てに情報を盗み取る営利目的のマルウェアが増えていることが背景に挙げられる。

 また、「架空請求やインターネットを利用した詐欺」は、偽サイトに誘導しクレジットカード情報等が抜き取られるフィッシングや、SMS等を利用した架空請求により金銭をだまし取る詐欺などの被害が増加しており、その手口が巧妙化していることが背景として挙げられると分析している。クレジットカードの不正利用被害の発生状況の推移でも、インターネット上の決済で多く用いられているクレジットカードの不正による被害額がこの数年高い水準にある。
 一般社団法人日本クレジット協会によると、クレジットカード不正による被害額は、2019年まで増加傾向で、2020年は前年比で減少した。しかし2022年は436.7億円と過去最高となり、2023年も9月までの累計で401.9億円となるなど被害額が拡大していることが伺える。BtoC-ECの場合、クレジットカードを決済手段として利用する機会が多いことから、消費者側の懸念に繋がっているものと見られる。

市場に繋がるスマートフォン効果
 2022年における世帯あたりのスマートフォンの普及率は90.1%である。相対的にパソコンの保有率は低下傾向にあり、スマートフォンの存在感は年々増している。電子商取引においてもその傾向は見られ、物販、サービス、デジタルの各分野においてスマートフォン経由での取引額が増加基調で推移している。同調査において、物販分野におけるスマートフォン経由のBtoC-EC市場規模を推計したところ、8兆6,181億円だった。これは、物販のBtoC-EC市場規模の約58.7%に相当する。
 スマートフォン経由の電子商取引がPC経由のものと異なる特徴として、スマホアプリとしてサービスを提供している事例が挙げられる。PCのブラウザからECウェブサイトを利用する場合、一般にサービス事業者からの連絡・通知は当該ウェブサイトのマイページ上か、別途メールで行われる。一方、スマホアプリの場合はプッシュ通知機能を用いてサービス事業者が能動的に利用者へコミュニケーションを図ることができる。
 メール通知の場合、受信した複数のメールの中に埋もれてしまう可能性もあるが、スマホアプリの通知であれば当該サービスから通知が来たことを利用者側は即座に察知することができ、当該スマホアプリ内で直ちにサービスを利用することもできる。
 このため、利用者にとって利便性が高く、事業者にとっても消費者とより強いリレーションを構築するチャネルとして期待されている。ライフスタイルが多様化する中で、BtoC事業を拡大するためには、事業者が消費者とより強いリレーションを構築することが重要な要素の一つとされ、存在感を増すスマートフォン経由の動線を確立することが欠かせない。

SNS利用のさらなる広がり
 LINEやX(旧Twitter)、InstagramといったSNSはそれぞれに用途が異なり、中心的な利用者の年代も各SNSツールで異なる。スマートフォンの高い普及率を背景に、SNSの利用が社会生活において定着している。
 SNSの利用率をみると、2022年のSNS利用率は80.0%で、2021年と比較してほぼ全ての年齢階層で増加した。特に6~12歳及び70歳以上の各年齢階層での伸び率が大きい。なお、ECにおけるSNS活用を検討するに当たって、SNSの媒体別利用動向を年代別で把握することも有用である。
 ECにおけるマーケティング等でSNSサービスを活用するに当たって、自社のターゲット層にリーチし得るSNSサービスを、年代別利用動向を勘案しつつ選択することが望ましい。ただし、必ずしも単一のサービスに絞る必要はなく、効果的に自社の商材・サービスを浸透させるため、複数のSNSサービスを活用する事業者も増加している傾向にある。
 また、近年はTikTokをはじめとする縦型ショート動画の人気が高まっており、ECに活用する事例も増加している。自社商材・サービスのターゲット層の利用率に加え、各SNSサービスの特徴を複合的に捉えた上で活用方法を検討することが望ましい。
 これからもSNSの利用度は堅調に推移し、ECとの結びつきもより高まると考えられる。中長期的な視点で捉えても、SNS活用の巧拙はEC事業の成果に直結すると考えられる。

国内BtoB-EC市場規模推計
 2023年のBtoB-EC市場規模は、465兆2,372億円(前年比10.7%増)となり、「その他」を除いたEC化率は、前年から2.5ポイント増の40.0%だった。同統計の数字は、「建設・不動産業」、「製造業(6業種に分類)」、「情報通信業」、「運輸業」、「卸売業」、「小売業(6業種に分類)」、「金融業」、「広告・物品賃貸業」、「旅行・宿泊業、飲食業」、「娯楽業」の全20業種を推計対象業種としている。
 この中で、印刷通販サービスに関連していると思われる「情報通信」分野の2023年のBtoB-EC市場規模は、22兆3,984億円(前年比22.7%増)、EC化率は23.4%と増加した。「情報通信業」全体の市場規模も年々増加(2023年95兆6,311億円)している中で、ECによる取引が拡大している様子がうかがえる。

インボイス制度への対応
 消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入が2023年10月から開始されるにあたり、課税事業者側の対応が進んだ。
 インボイス制度では、課税事業者は事前に適格請求書発行事業者として税務署への登録を受けた上で、区分記載請求書等保存方式に「適格請求書発行事業者登録番号」、「税率ごとの消費税額及び適用税率」を追加した「適格請求書」を発行する必要がある。区分記載請求書等保存方式では、請求書の追加項目について交付を受けた事業者による追記も可とされていたが、インボイス方式では、発行事業者は取引の相手方の求めに応じて適格請求書を発行する義務、請求書の写しを保存する義務が課されている。
 制度開始に向けて、課税事業者の業務効率化に資するポイントとして、適格請求書の内容につき電磁的記録での提供(電子インボイス)が可能とされた点がある。電子インボイスの記録事項は書面で交付する場合と同一であり、その提供方法としては、例えば、オンラインシステムを介したEDI取引や、電子メール送信、インターネット上のサイトを通じた提供、記録用媒体での提供などが認められる。また、電子帳簿保存法における保存方法に準じた方法で保存することが認められており、紙を保存する場所を必要とせずに請求書の写しを保存することが可能である。

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