フジ美術印刷 キーワードは“すぐに” ~ PODをドライオフセットに位置づけフル活用
フジ美術印刷株式会社(山口県岩国市)の藤本正雄社長はアイデアマンである。国内で先駆けて商業印刷市場でUVオフセット印刷技術を活用した疑似エンボスやスポットニスなどの特殊効果を取り入れたほか、印刷紙面の速乾性による即納サービスに着手。2021年には封書の内部の折り目に内容物を整合させる技術で特許を取得している。藤本社長は「道具は使い方次第」という。オンデマンド印刷機も同様で、早くから薄紙、厚紙への印刷に挑戦し、新しい商品を生み出してきた。大塚商会から導入したRICOH ProC9200、RICOH Pro C7200Sも単なるプリンターではなく、“ドライオフセット”と位置づけ、オフセット印刷と異なる視点から、印刷サービスの価値を高めている。
チャレンジ精神に応えるRICOH Proシリーズ
フジ美術印刷は昭和43年に藤本正雄社長が活版印刷会社として創業した。従業員は23名。中小規模ながら頁物から商業印刷まで幅広い印刷物に対応し、四六半裁B2対応の枚葉オフセット8色機、菊半裁4色機、後加工機器の生産設備で需要に応えている。
同社の需要の70%が岩国市外。早くからUV印刷による即納体制を敷いたるのは、東京や大阪の大都市圏と離れていても競争できる力を持つためだった。UVニスを利用した特殊効果も同社の独自性を高めてきた。
オンデマンド印刷に取り組み始めたのは約10年前。長年、取り組んできたオフセット印刷が “ウェットオフセット” だとすると、オンデマンド印刷は “ドライオフセット” だと直感した。当時から小ロット印刷物の即納性に優れた機能に着目し、その可能性を追い求めている。
「キーワードは “すぐ欲しい”、“すぐ印刷”、“すぐ納品” です。オフセット印刷ではお客様の要望に、時間的に間に合わなくなっています」(藤本社長)
同社からは岩国航空基地まで車で5分もかからない。基地内のデザインルームでは20名ほどのデザイナーが勤務しており、入稿されたら2時間程度で印刷物を届ける。ある時、羽田空港から、岩国錦帯橋空港に向かうので降りた場所で名刺を入手したいという連絡が入った。羽田空港から基地と共用する岩国錦帯橋空港まで約1時間40分。その間にスキャニングされた名刺からデータを起こして印刷、断裁し、空港で手渡した。そうしたタイムリーなことでも今では通常業務となっている。
「これまでは早く準備をしなければ希望の日に印刷物が手にできませんでした。お客様にそうしたストレスを感じさせないことが大事です。“すぐ欲しい”、“すぐ納品” からは感動が生まれます。印刷物というより、スピードというサービスを納めている感覚です」
オンデマンド印刷の品質や機能がオフセット印刷に限りなく近づいたことで、同社が提供できる商材やサービスの幅が広がっている。出力検証がされていなかった頃から感圧紙への印刷にもチャレンジ蝶の写真集、色を忠実に再現。ステッカーなど粘着紙も印刷しており、マシンのポテンシャルを最大限に引き出そうとしてきた。そうした挑戦意欲にRICOH Pro C9200シリーズは応え続けている。
藤本社長は「保有する道具をいかに使いこなすかです。機械ができないのではなく、使い方が悪いのです。オンデマンド印刷の臨機応変な利点を引き出すことで様々な使い方ができます」と強調する。同社のオンデマンド印刷の分岐点は平均2,000枚。多い時には4,000~5,000枚でもRICOH Pro C9200で印刷する。オフセット印刷で対応不能なスピードが問われる印刷物や、バージョニングで多品種・小ロットになる印刷物では分岐点を超える。もちろん極小ロットの強みも同社では活かしている。
岩国市出身の写真家からは、写真集で忠実に蝶の色味を再現したいという要望が寄せられた。いくつかの印刷会社に頼んでみたものの、できないと断られたという。藤本社長がオフセット印刷と色校正の価格を見積もったところ350万円にもなり、要求する価格と合わないことが分かった。
藤本社長はRICOH Pro C7200Sで、10数回の校正を経て色を合わせ込んでいった。蝶の羽のバイオレット、オレンジがオフセット印刷よりも鮮やかに再現でき、本製品もRICOH Pro C7200Sで印刷した。
「本機校正や平台校正ではコストに見合わないし、その場で修正してすぐに見てもらうこともできません。写真集は広開性のあるPUR製本で納めたのですが、写真家の方は修正の素早さに驚かれて、良いものができたと喜んでいました。1枚でもすぐに印刷できて、コストが低いため、写真家の要求に応えることができました」
さらなる改良に期待
高い用紙対応力を持つRICOH Pro 9200では、タック紙などの粘着シートに印刷し、販促用のステッカーや、可変ナンバーの入ったラベルも生産している。
同社はかつて風力が通常の1.5倍になる持ち手のない団扇『ハートくん・ハートちゃん』を開発して企業の販促品として販売していた。今でも団扇の需要は一定数ある。そうしたニーズに応え、RICOHProでタック紙に印刷し、カッティングプロッタでユニークな形状にカットして骨組みに貼り付けた団扇を提供する。夏の販促品以外にも御朱印団扇として神社が採用するケースもある。
このようにRICOH Proを使い込んでいるからこそ、オンデマンド印刷機がさらに発展できる余地も見えてくる。
「私たちのような中小企業は、毎日、様々な印刷物を作るわけです。薄紙の日、厚紙の日と分けることができれば良いのですが、1日に何度も用紙の厚さや質を変えながら印刷しなければなりません。印刷のエンジン部分は非常に進化しているのですが、例えば様々な厚さや種類の紙をさばけるようにデリバリーを改良すれば、ますます“印刷機”に近づくと思います」
業界全体でオフセット印刷機を扱える人材は減ってきている。藤本社長はマニュアル通りに印刷できる “ドライオフセット” の領域が広がると見ている。「時代が変りました。とくにこの3年間で社会が大きく変化しており、大ロットの印刷物の減少が加速するでしょう。そうした中でオンデマンド印刷機は面白い道具だと思います」とその可能性に期待している。
フジ美術印刷株式会社
山口県岩国市今津町2丁目2-52