ガーメントプリントのトレンド インクジェット技術で布のデジタル印刷方式が多様化~低イニシャルコスト、スキルレス化が進む

 デジタル印刷は紙以外の領域にも広がっている。その代表が“布”である。

 布への印刷はシルクスクリーンによる捺染方式が一般的で、現在でもウェアをはじめ、のぼりや旗などの大量印刷の分野で利用されている。一方、ファストファッションをはじめとするアパレル業界では小ロット、多品種が進んでおり、デジタル印刷方式によるプリントがスタンダードとなっている。クラブ活動や祭などのイベントでは、名入れ等でさらに小ロットが進み、インクジェット技術を活用した多様な印刷方式が広がりつつある。

インクジェット捺染

 布へのデジタル印刷の代表はインクジェット捺染である。主なメーカーはエプソン、コニカミノルタ、京セラ、ミマキエンジニアリング、ミヤコシなど。インクジェットヘッドからインクを生地に直接印刷する方式で、シルクスクリーンに比べて小ロットに対応する。一方、印刷の前に生地の前処理と、スチームによる後処理が必要になる。その際に大量の水を必要とし、排水が水質を汚染することが指摘されている。

京セラのインクジェット捺染プリンター FOREARTH
ミマキエンジニアリングの昇華転写用プリンターTiger600-1800TS

最近、各メーカーからは、水の使用を限りなくゼロに近づけたインクジェット捺染プリンターが発表されている。
 ミマキエンジニアリングは天然繊維の染色を最小限の水の使用量と簡単なプリント工程で実現する「捺染顔料転写プリントシステム」を発表した。同社によると、現在、天然繊維の染色では染料や顔料が使用されているが、染色の前後工程における化学物質混合排水が全世界で毎日20億トン発生しており、これは全工業用排水の約20%を占める上に、大規模な染色設備の稼働によるCO2排出が環境負荷に繋がるという。
 捺染顔料転写プリントシステムは従来の捺染方式(アナログ及びデジタル捺染染料印刷)と比較して印刷に関わる水の使用量が限りなくゼロに近く、設備規模が小さいため稼働によるCO2の排出も大幅に削減する。
 京セラのインクジェット捺染プリンター『FOREARTH』は、独自の顔料インクと前後処理液を同時に印刷することで、印刷、乾燥以外の工程を不要としたオールインワンプリントシステム。これにより、従来の染料アナログ捺染に比べ、水使用量を99%削減する。


昇華転写

 昇華転写プリンターは、専用インクでプリントされた転写シート紙とポリエステル生地を重ね、熱と圧力により絵柄をプリントする方式。熱を加えることで、気化したインクがゆるんだ生地の結合分子に染料が染み込み定着する。インクジェット捺染プリンターよりもイニシャルコストが低く、導入しやすい方式といえる。

 昇華転写プリンターのメリットは、イラストや写真を鮮やかに再現できること。生地の素材の風合いを生かすことができ、洗濯にも強く、Tシャツやトレーナーなどの印刷に向いている。代表的なプリンターメーカーはミマキエンジニアリング、ローランド.ディー.ジー、エプソン、HP、武藤工業など。


ガーメントプリンター

 ガーメントプリンターはインクジェット方式で生地に直接インクを塗布して絵柄を直接印刷する。生地に前処理剤を塗布した後、プレスして印刷面を平滑にし、インクジェットプリンタでプリントする。プリントした生地はヒートプレスにかけてインクを定着させる。作業が簡単で、比較的安価に導入できることから、布へのデジタル印刷の入門機として採用が進んでいる。対象生地は綿。

 リコーのガーメントプリンター『RICOH Ri 100』は、30万円から導入できるエントリーモデルで、オリジナルグッズやイベントなどの用途で活用されている。仕上機と本体が一体となっており、特別な技術がなくても印刷することができる。

 上位モデルの『RICOH Ri 2000』はホワイトインクを搭載し、濃色系の生地に印刷した際の色の再現性を高めた。テーブルが布地の厚さに応じて最適な高さに自動で昇降する機能を備えており、作業者の感覚による高さ調整を不要にした。ガーメントプリンターはブラザー工業、エプソンも扱っている。


DTF

 DTFはDirect to Filmの略で、インクジェットプリンタで印刷した専用のフィルムシートを布に転写する。布への印刷方式としては比較的新しい。転写する前に専用パウダーを転写面に振りかけて熱で定着させる方式で、導入コストが低く、ポリエステル、綿、ナイロンを問わずに印刷することができる。ガーメントプリンターもエンジンはインクジェットなので、DTFへの印刷が可能であれば、苦手だったポリエステルへの印刷が可能になる。
 代表的なメーカーはミマキエンジニアリング、ローランド ディー.ジー、理想科学工業。
 ミマキエンジニアリングが今年2月に発表した『TxF150-75』は、プリンターのインク包装形態にアルミパックを採用する脱気インク設計を採り入れるとともに、白インク循環機能MCTを搭載することで、これまでD TFプリンターの課題だった「インク吐出不良」や「白インクの詰まり」を解決している。

リコーのガーメントプリンターRICOH Ri 100
リコーのガーメントプリンターRICOH Ri 2000
ミマキエンジニアリング TxF150-75

 かつて布への印刷は高額な設備と高い技能が必要とされてきた。現在はインクジェット技術を活用し、従来よりも安価な導入コストで、熟練の技能があまり必要とされなくなっている。印刷方式も用途や目的に合わせて多様化しており、商業印刷業でも参入しやすい。実際にのぼりプリントやTシャツプリントのサービスを提供するWebサイトも増えている。

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