多田紙工 製本・後加工技術をベースに事業を変革~エコ・プレスバインダーで紙製ファイル、ミニ折りで“おみくじ”も
「切る」「折る」「綴じる」の専門業者として操業している株式会社多田紙工は、従来型の大ロットの製本・後加工だけでなく、小ロットやミニ折など、様々なニーズに対応する製本・後加工業への転身を始めている。そうした中でも、全国でも珍しいエコ・プレスバインダーをいち早く設備し、環境対応型の綴じ加工を提供してきた技術でも注目されている。変化を続ける同社の多田信社長に話を伺った。
多様な後加工をする企業へ
断裁と折り加工を強みとしてきた多田紙工の本社工場には、断裁機17台、折加工機53台、中綴じ機15台が並び、設備力と技術力を背景とした対応力で、圧倒的な製本加工サービスを展開している。
なお2021年春、グループ会社のTADクロスメディアを本社に統合させることで、さいたま市南区の本社工場へ生産設備を一極集中させた。これにより現在は、大ロットから小ロット・多品種まで、柔軟なニーズに対応できる体制となった。
コロナ禍以降、印刷製本市場はさらに縮小しているのを感じるという多田社長。これまでにも増して、時代の変化に応じた事業体へと変えていく必要があると言う。同社で受注している定期刊行物の市場そのものが縮小傾向にある。こうした中でTAD三芳時代のノウハウが生きているのも現状である。
特徴の一つである折加工については、ミニ折からA倍版まで特殊折も可能。中綴じでは2丁製本や大ロット~小ロットまで対応。インラインの折りやパンチング加工も行う。その他に、投げ込み加工やエコプレス製本、おみくじ折り、ミシン入れ、抜き加工などができ、POD印刷にも対応する。品質管理についても、多数の検知器を備えて安心安定の品質で製品づくりを行っている。
なお同社では組織のあり方についても改善に取組み、製造ラインの指示系統を機動的にすることで、スピーディーで筋肉質な組織づくりへと乗り出している。多田社長はコロナ禍を迎えたことで、経営に対する考え方、印刷・製本産業のあり方を考える機会となったとも分析する。周囲からも理解を得やすい今こそ、企業を変えていくチャンスの時でもあると捉えている。
注目が高まる「紙ファイル」づくり
同社が製造しているメニューの中で、特に注目が集まっているものに針金を使わない中綴じ機「エコ・プレス・バインダー」による綴じ加工がある。脱炭素社会への取り組みなどSDGs的視点が高まっていることから、改めて注目されているグッズであり、問合わせも増加している。
エコ・プレスバインダーは、加圧だけで綴じる方式なので、綴じるための副資材を使わないことが大きな特徴となっている。廃棄する時も、そのままシュレッダーにかける事ができ、リサイクルにも出しやすいなど受け取った側にとっても処理しやすい。SDGsの視点だけでなく、針金を使わない点から安心・安全の製品づくりとしても注目されているという 。
特に、「紙クリアファイル」の製造を積極的に行っており、エコ・プレス方式と糊付け方式の2つの製造方法を用意して、ニーズ応じた製造で対応している。エコ・プレス方式に関しては、エコ・プレスバインダーを利用したもの。糊付け方式は、ファイル上に折る前糊を噴霧するという製造ラインで、折り機の部分に糊付け装置を後付けして、生産を可能にしている。
この「紙クリアファイル」は、紙素材のため印刷を施すことで、社名やイベントのタイトルなどを加えることもできる。
ちなみに、エコ・プレス方式は、110㎏から180㎏までの紙厚の素材が適している。一方、糊方式は110㎏までが適正である。こうして、薄いファイルから、厚手のファイルまで、用途に応じたファイル作りが実現する。
紙製のファイルは、企業におけるSDGs活動をバックアップするものづくりであり、社会に対して意識の高さを表現できるグッズとなる。同社で提供する「紙クリアファイル」は、100%紙製なので、そのまま廃棄でき、機密性の高い情報や個人情報などの封入にも適している。
こうした紙製ファイルが利用されるのは、顧客先へ渡す資料を封入するというシーンが多い。そのため、紙製ファイルを採用した企業の気遣いも伝えることができるツールなのだという。
このほかにも同社では小さいサイズの折り加工による「おみくじ」などの加工も行っている。コロナ禍明けの急激なインバウンド市場に向けた地域密着型の楽しい印刷物として期待できるという。
加えて新たな商品メニューに、セルロースフィルムの採用もスタートさせた。従来からあるセルロースフィルムは、見た目は透明でプラスチックに似ているが、原料が環境に優しい素材(パルプ)から出来ている。水との親和性が高いため水に弱いことなど扱いにくさもあるが、透明度を必要とするニーズにマッチする素材として再び注目を集めている。
企業存続のために変革する
多田社長はアフターコロナの時代は、コロナ前の市場が戻ってくるとは考えていないと断言している。受注メニューの多様化や組織改革などを行ってきた背景には、戻らない市場への対応にいかに対峙していくかという思いがある。加えて、働き方改革や人材確保といった観点からも、最適な現場づくりが必要であり、その一旦として、自動化を進めることも必要だと考えている。
自動化を必要とする背景には、印刷価格の見直しという課題もある。原料価格が高騰している中で、従来と同様の生産性を維持するために、製造コストへの対策が必要となり、効率化や省力化が求められる。加えて、印刷価格への対策として、エコプレス・バインダーのような付加価値をつけたものづくりを行い印刷物の価値そのものを向上させることや、複数の企業と新しい市場をつくるためのOEM提供などに取り組むことも可能性としてあるという。
しかし、日本の印刷市場は海外と比べると守られた市場でもあるとも見ている。そこで新しい市場開拓のためにも、海外市場に向けて、日本の印刷・加工技術をPRするなど、海外市場を新しい市場として見ていくことも可能性としてあるのではないかとも言う。「そのためにも、絶えず勉強していくことが必要だと感じています」と言う。
市場が縮小しても製本や後加工のニーズ全て減っているというわけではない。年度末のシーズンになれば、仕事が集中し、製本会社が減少することで、さらに作業が過密していくという状況もある。製本・後加工という製造責任を果たしていくためにも、製本会社として存続していくことが必要だ。
そのためにも、新たなビジネスへ乗り出し、市場を開拓し、利益を生み出していくことが必要だ。印刷市場がシュリンクしていても、今も印刷物が必要とされているシーンがあるだけでなく、新しい市場を開拓し、利益を上げている印刷関連企業も存在する。
「本当に印刷メディアが必要なものは何かを検討し、提案していく必要があると思います。その時、必要とされる紙メディアを提供できる、そのための加工技術を提供できる企業でいるためにも、常に変革していくことが必要だと思っています」と展望している。
<『株式会社多田紙工』概要>
株式会社多田紙工
本社:埼玉県さいたま市南区松本1-16-1
代表:多田信氏
TEL 048-863-7987
FAX 048-865-0125
https://www.tadashikou.co.jp/