東京グラフィックス 新会長の原田大輔氏に聞く ”再生”目指し経営強化支援

 (公社)東京グラフィックサービス工業会は5月25日に開催した総会で原田大輔氏(㈱グッドクロス)を会長に選任した。原田会長に今年度の東京グラフィックスの事業方針や、印刷業界の展望について伺った。

ゼロからの再構築へ

 副会長としてのこの2年間、コロナ禍での運営はとても厳しかったと言えます。開催を予定していても直前に中止を決断した行事も多く、清水前会長は大変苦労されていました。その中で役員一同が試行錯誤し、オンラインを活用した新しい運営方法はある程度かたちにできたのではないかと思います。

 コロナ後の世界が少し見えてきましたが、元に戻ることは無いでしょう。コロナ禍があまりにも長期に及んだために人々のライフスタイルが変わってしまいました。コロナ禍が収束しても少子高齢化社会による需要減少、人材不足が解消されることはありません。今のままではさらに厳しい状況に置かれることになります。それを考えるとこれまでのやり方が通用するとは思えません。「これまで」が通用しない以上、『再構築』が必要です。
 
 これは自社のことでもあるのですが人の高齢化よりも、組織の高齢化が大きな課題です。会社設立から20年程度の当社ですら「これまでこうやってきた」という慣例を踏襲しがちです。そうした前例主義では全く歯が立たなくなっているにも関わらず、新たな手法や新たなるチャレンジへのスピード感が落ちています。企業が存続し続けることはとても価値のあることですが、長年蓄積された荷物が重すぎます。

公益社団法人東京グラフィックサービス工業会 会長 原田 大輔 氏

新たな世界のDay1

今回の惨禍により突然3年後、5年後がやってきたとも言われる今、翻弄されるだけではなく、これも1つの機会と捉えてゼロベースで考え、「新たな会社の1日目である」くらいの気持ちで取り組んでもいいかもしれません。会社には有形無形の財産が多くありますが、世界がひっくり返ってしまった今、必要なくなったものも多くあるでしょう。『今日から始まる』『毎日が1日目』という気持ちで産業の進化につなげていきたいですね。

 来期の東京グラフィックスは、「会員企業の経営強化支援」に注力します。当然ですが経営強化は最終目標ではありません。会員企業が時代に適応し、進化を遂げるための準備段階です。今必要なことは、体力が落ちてしまった企業の経営状態を向上させることで資金的および思考的余裕をつくり、行動を起こすこと。当会ではそれができるよう援護・支援することに注力していきます。

 具体的には、『情報発信』、『会員企業間の情報交流・ビジネス推進』、『ビジネスツールの提供』などを中心に実施します。当然、所属しているだけで儲かるということはありません。当会としては、ビジネスに直結する大きなメリットの提供を目指し、得られた情報を活かすための行動をバックアップしていきます。

 会員数が減少傾向にある中、会員増強が課題となっていますが、”増加”の前に”強化”が必要です。所属するメリットを確かにして会員を強化し、その成果が広まり新入会員が増えていく、・会員強増・という構図が理想です。

キーワードは再生

 印刷産業は斜陽産業と言われて久しいですが、当会の先人たちはそれを見越したように四半世紀も前にグラフィックサービス工業会と名称を変更しました。しかしながら現実にはまだまだ印刷業から広がり、グラフィックサービス業に進化しきれていません。かつて、日本国有鉄道(現・JR)や日本電信電話公社(現・NTT)も斜陽な時代がありましたが、従来の事業を進化させたことで産業再生を成し遂げました。

 両社は、移動手段や通信連絡手段提供を無くすことなく、新たな価値を提供し、顧客を創造しました。印刷産業でも同様のことができないはずがありません。昨日と同じことをやり続けていても目減りは必然、新たな顧客を創造するために新たなサービスのみならず、生産性の向上等についても新たな手法を取り入れていく必要があると考えています。

 中小企業単体では市場を拡大することはできませんが、団体活動を通してなら可能かも知れません。例えば、当社が名刺に特化して印刷産業に参入できたのは、デジタル印刷機が普及したからです。そうした産業の新たな展開は新規参入の障壁を下げ、マーケット拡大につながります。だからこそ団体や組合の会員企業は競合他社であると同時に新しい市場を創出するための協力関係でもあると思います。

 印刷業界は長らくスタンドアロンであったように思いますが、これからはネットワーク的発想で他産業ともつながっていくことを容易にしていきたいです。単にさまざまな産業からの印刷物の受注を増やすといった方向性ではなく、ビジネスネットワーク上の重要な立ち位置を占める産業としての確立を目指します。そのためには他の印刷業界団体とも一丸となって業界の変容を促し、新規参入が相次ぐ魅力ある産業へと進化させるために尽力していく所存です。


【原田大輔氏】
 原田氏は福岡県大牟田市出身。大学卒業後に勤めていた福岡の広告代理店に就職。福岡、長崎、東京での勤務の後、決済会社の立ち上げに携わるため上京、その後経験を活かし2001年電子決済の代行業務を行う新会社(㈱グッドクロス)を設立。電子決済事業に続き、受託コールセンター事業、印刷事業、フィリピンでの留学支援事業を行う。印刷事業はデジタル印刷機普及による参入障壁低下をきっかけに開始し、現在はWeb受注による名刺印刷事業を展開している。

 2006年、(一社)日本グラフィックスサービス工業会(ジャグラ)の構成組織である(公社)東京グラフィックサービス工業会へ入会。業界団体の活動に精力的に参加し、2012年よりジャグラ理事、2014、15年に東京グラフィックス青年部FACE会長、2016年より城南支部長に就任。2017、18年には、東京都印刷関連10団体から成る印刷産業青年連絡協議会の会長を務め、2020年より現在まで東京グラフィックス副会長として会の運営を支えた。

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