富士フイルムBI 昌栄印刷が3年連続でイノベーション・プリント・アワード受賞
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、富士フイルムBI)は、アジア・パシフィック地域を対象に、デジタル印刷に関するコンテストプログラム「イノベーション・プリント・アワード(IPA)」を2008年から毎年開催し、デジタル印刷を活用した創造性と革新性の優れた作品を表彰している。通算15回目となる2022年度は、アジア・パシフィックの12の国と地域から193作品が応募され、その中から47作品が選ばれている。
年々、技術、表現、アイデア、ビジネス的要素など、様々な面でレベルが向上。各国の文化や習慣などを反映しつつも、印刷ビジネスの観点からも刺激的な作品が揃うコンペとなっている。
そうした激戦の中、2022年度は、日本から2社・2作品が上位に入賞。そのうちの一つが、大阪市・昌栄印刷株式会社による「〝ART JACKET〟series(〝アート・ジャケット〟シリーズ)」で、芸術関連作品カテゴリーの第1位を受賞した。
3月6日、同賞の表彰イベントが昌栄印刷本社で行われた。富士フイルムBIからは、執行役員・木田裕士氏が訪問。木田執行役員から、昌栄印刷の代表取締役社長・横山三津雄氏に表彰状とトロフィーが授与された。
デザイン部門に光をあてる活動
〝アート・ジャケット〟シリーズが芸術関連作品カテゴリーで1位
デジタル印刷によるイノベーティブなものづくり
昌栄印刷は、IPAにおいて、2020年度、2021年度に続き、3年連続で入賞。木田執行役員は、「3年連続の受賞は快挙」と讃えるとともに、業界への価値の提供を引き続き行い、支援していくと述べた。
昌栄印刷の横山社長は受賞の喜びを述べるとともに、IPAは制作の裏方にスポットを当てる取り組みであることを評価。今後も独自性を発揮していくことにチャレンジしていきたいと語った。
「芸術関連作品」カテゴリー第1位を獲得した昌栄印刷の「〝ART JACKET〟series」(以下、アート・ジャケット)は、協業先であるCOINCIDENCE㈱(コインシデンス)主催のアート展のオリジナルグッズとして誕生した。若手アーティストの活動を支援するツールとして、音楽にとどまらず全てのアートを詰め込むことのできるアート・ジャケットとして企画された。
昌栄印刷は、1907年、有価証券専門工場として設立した企業で、通帳印刷を主な業務としてきた。1923年、民間としては初めて紙幣(二百円札)を製造。これを機に1944年、大蔵省印刷局の管理工場に指定されている。
1961年には日本初の磁気インキ印刷を開始。それ以後、手形、小切手、磁気ストライプ付き通帳などを主力製品としてきた。やがてカード時代の到来に併せて国際カードの製造発行を行う工場を新たに設け、現在はICカードの製造にも着手している。この取り組みにより金融業界の枠組みを超え、一般企業のIDカードの企画・製造も行っている。
こうした業務内容を背景に、同社は創業以来、〝印刷でできるセキュリティ〟を求め続けてきた。最近の新たな取り組みでは、高性能ICカードの分野に力を入れ、より高いレベルのセキュリティを実現する指紋センサーカード、インストアマーケティングの活用が期待されるビーコンカードの製造にも取り組んでいる。非接触分野の新しいソリューション、空中ディスプレイの提案も積極的に展開している。
今も金融機関向け事業が大きなウエイトを占める中で、新しいものづくりにチャレンジしているのが経営戦略本部クリエイティブセンターである。センター長含め所属する5人のデザイナーが、日々、新しい表現を模索している。
同社のものづくりのベースとなっているのが「ブレインストーミング」で、限られた時間の中で、様々なアイデアを出し合い、化学反応を起こし、形にしていく。「それがチーム力になっている」と同センター長の田渕健一氏は語っている。
このクリエイティブセンターについて田渕センター長は、会社の製造の本流にない案件の受け手でもあると表現する。「だからこそ色々なことに対応できるよう先手を打つようにしている」と言う。その結果、立体成形や空間づくり、Web制作から映像制作、着ぐるみづくりまで守備範囲が広い。自社で出来なくても他社と連携して取り組んでいる。
「ただし、〝自分が好きなこと〟と言えることも重要だと考えていて、日常生活の何気ない出来事をスタッフと共有することが重要だ」とも語っている。
偶然の一致で繋いでいく 「コインシデンス」という会社
一方のコインシデンスは、「偶然の一致で世界をつなぐ」をビジョンとし、ミッションは「ブランドを創造する」のもと活動している制作会社。
東京都港区元麻布にある拠点では、日夜、若手アーティストやクリエイターが集い、議論を交わし、新たな情報が発信される場となっている。具体的には、企業ブランディング、地域ブランディング、ブランドプロデュースなどを行っている。
コインシデンスと昌栄印刷の繋がりは、コインシデンスの関連企業である伸童舎㈱がアニメ関連の企画デザインと制作を行なっており、ライセンスビジネスでの付き合いがあった。両社を経営する野崎伸治氏のものづくりに対する姿勢に共感するところが大きく、その繋がりの中で、アーティストのNara Akito氏の企画展に向けたビジュアルを見た田渕センター長が、「これはLPジャケットになる!」と、何気に口にした一言から、今回の構想が始まった。
LPレコードは音楽を聴くものだが、レコードジャケットのデザインはしっかりとしたコンセプトで作られているからこそ、アート性も高い。部屋のインテリアにもなり、飾っているジャケットを見ただけで、人と成りが伝わってくる。「それは、まさにアート・ジャケットと呼べる新しいカテゴリーだ」と、田渕氏は振り返る。
LPサイズレコードジャケットは直径30㎝。同社に設置している富士フイルムBIのデジタル印刷機ならば、長尺印刷ができ、それを折りたためばジャケットになる。加えて、アート・ジャケットの中身は、アーティストそれぞれのセンスで詰め込むグッズを変えることができるなど、デジタル印刷の特長を活かしたものづくりが可能。
特に今回は、実際に中古のLPレコードを購入。その中古レコード盤の銘の部分には、オリジナル画を描いてもらった。このアート・ジャケットはシュリンク包装され販売したこともあり、封を開けて初めて作品がわかる〝サプライズ商品〟となった。
なお、今回作られたアート・ジャケットは限定販売としており、制作数は40部。1作品当り4400円で販売され、即完売した。
デジタル印刷の良さが詰まったアート・ジャケット
販売するにあたり、微細な絵柄の違いで商品を判別する一意識別技術「Yoctrace(ヨクトレース)」を試験的に採用した他、非代替性トークン「NFT」技術も加えた。これにより持ち主を限定できるようにするなど、アーティストの作品の著作権を保護する仕掛けが施されている。
アート・ジャケットの取り組みは、今後もリアル展示会と併せて商品化し、「アート・ジャケットシリーズ」として販売していく予定である。ジャケットに詰め込む中身をアーティストがそれぞれ決めることが出来るのは、デジタル印刷ならではの商品づくりであり、アーティストそれぞれのテイストを活かした楽しい商品ができると期待を寄せている。さらに今後は、アーティストに利益を還元できる仕組みも加えていきたいと考えているという。
同社がデジタル印刷機を導入したきっかけはクレジットカード会社が発行するDM作成への対策だった。有価証券印刷を生業としてきたこともあり、どちらかというと特色文化の強い社風があるが、個人情報を用いたオンデマンド印刷のカラー印刷によるDM作成の設備として、デジタル印刷機が導入された。
例えば、金融機関では移転をはじめとする通知のツールとしてDMが活用されており、同社のプロダクションプリンターもDM作成の分野で活躍している。この分野は、多品種小ロットの市場であり、デジタル印刷の威力が発揮されている市場でもある。
しかし今後はDMだけに限らず、イノベーティブなものづくりの手段としてもデジタル印刷をより活用していきたいと語る田渕センター長。今回のアート・ジャケットは、「デザインから可変データまで、見えないところも含めてデジタル印刷のあらゆる良さが詰まった商品」と語っている。
そしてデジタル印刷は、「小ロットでも質感の違うものを、様々に印刷できることが面白い」とも言う。気軽に複製物を作れるなどのメリットを活かすことで、一つの作品、商品に、他の意味を持たせた商品として生まれ変わらせることもできる。「これはデジタルプリントだからこそ出来ること」とデジタル印刷の魅力を語っている。
今後は、「アートに関する作品の価値を、もう一段階レベルアップしていきたい。アートが世の中に連鎖していくことで、作品を通じて新たな安らぎを提供できるような活動を行っていきたい」と展望している。
【昌栄印刷株式会社】
本社:大阪市生野区桃谷1-3-23
℡06-6717-1181(代)
https://www.shoei-printing.com/
【昌栄印刷・横山三津雄社長コメント】
デザイン部門(クリエイティブセンター)のキーワードは、「ヒアリング」と「モディファイ」(修正や変更、改善など)にある。様々な角度から発想を展開していく時、個性あふれるスタッフのチーム力が活きてくる。
最近では、ビーコンの技術、非接触端末、あるいはプリペイドカード事業などを提案しており、『印刷』では括れない事業にも取り組んでいる。我々にとって一番重要なのはイノベーティブなことに取り組むこと。他の印刷会社とは異なる、独自性をいかに出せるのかにチャレンジしている。イノベーティブさをビジュアルにしているクリエイティブセンターの担当者も共通の思いを持っており、会社の方向性とも合致している。
しかし、印刷会社のデザイン部門の仕事は裏方のイメージが強い。そのため、IPAという成果を発表する〝場〟を頂くことで、担当者のモチベーションも向上し、視野角を拡げていこうという気持ちの後押しとなり、デザイナー自身が考える機会になる。それがコンペに参加する一番大きな意義だと思う。
加えて、作品作りは新しい商売の分野にチャレンジできる機会にも繋がる。これからも新しいことにチャレンジし、イノベーションに繋げて欲しいと思っている。
【富士フイルムBI・木田裕士執行役員コメント】
昌栄印刷様の作品は、発想が面白く、素晴らしい。また今回で3年連続の受賞となり、まさに快挙と申し上げたい。
お客様の意識も変わってきており、従来通りのビジネスでは成り立たないと気づき始めている。現在の印刷産業全体も価値を上げることにフォーカスする必要性が注目されている。価格だけの競争は長続きしないことを業界全体が気づきだしたことを現わしていると思う。
しかし、それは簡単にできることではない。価値あるものをいかに提供できるのかが問われており、IPAに参加している企業は、そこにチャレンジしている企業だと思う。我々も、そうした取り組みのパートナーとして、様々な価値を提供し、支援していきたい。