あさひ高速印刷 展覧会図録の本紙校正で成果、SCREENの Proof Jetを基準値にJapan Color認証取得
あさひ高速印刷株式会社(大阪府大阪市/岡 達也社長)は昨年11月、一般社団法人日本印刷産業機械工業会からJapan Color認証を受けた。品質管理マネジメントの国際規格ISO9001を取得するなど同社は高い品質水準を持っているが、Japan Colorを基準にしたカラーマネジメントの構築により、色再現の効率を一層高めている。「現場の負担になる」(岡社長)との想いからJapan Color認証と距離を置いていた同社が一転して認証取得に舵を切ったきっかけが、SCREENGP ジャパンの印刷本紙校正用インクジェットプリンタ『Proof Jet F780 MARKⅡ』(以下 Proof Jet)。ある美術館から請け負った展覧会の図録の製作では用紙選定から承認まで、本紙校正のプロセスで大きな成果を上げた。
工房・江戸堀印刷所
活版、オフ、デジタルを融合
同社は1950年、大阪市阿倍野区で創業した。主にページ物印刷を主体に“発想から発送”までの一貫生産体制を整備しており、大阪市西区の本社ビル内で、企画から制作、製版、印刷、製本、発送までを完結している。このため、生産工程全てで品質管理が徹底できるほか、高い情報セキュリティ体制を構築している。各工程が同じ建屋で仕事を進めているため、技術開発、商品開発もしやすい。とくにここから生み出された新しい製本形態は、“創注”につながるインキュベーターとしての役割を果たしている。
2011年秋には本社近くのビル一階に『江戸堀印刷所』を開設した。工房、打ち合わせスペース、小さなギャラリースペースを設けており、ハイデルベルグのT型プラテン機が常設されている。プラテン機はビルが面するなにわ筋の歩道から目を引く存在となっているが、オブジェではなく実際に稼動する。
江戸堀印刷所は“印刷所”で、“活版印刷所”ではない。確かにクリエイターたちは活版印刷の風合いや表現力を求めて、最初にここを訪れることが多い。しかし、江戸堀印刷所の扉を開けると、活版印刷に限らず、あさひ高速印刷が提供しているオフセット印刷、デジタル印刷、製本、各種加工のメニューも並ぶ。顧客は江戸堀印刷所のスタッフと相談しながら、そこから自らの表現に適した印刷方式や加工方法を選べる。例えば、ファンシーペーパーと活版、デジタル印刷機のホワイトトナーを組み合わせた名刺も可能である。棚に陳列されたそうしたサンプルは訪れるクリエイターたちの表現意欲をかきたてる。
数年前、ある美術館の関係者が名刺を作りにここを訪問した。通勤途中に通りを歩いていると、黒い活版印刷機が常に気になっていたのだという。応接したのは同社企画開発室 営業企画グループ、江戸堀印刷所所長の小野香織氏だった。
「いい感じの名刺を作りたいというご要望からお取り引きが始まりました。ある日、新しい美術館の印刷物を相談したいとのことだったので、名刺の印刷かなと思ったら、展覧会の図録の企画でした」(小野所長)
頁物を得意としている同社ではモノクロの文字物に限らず、カラーの社内報や広報誌の印刷を手掛け、一部、美術館からの依頼もある。ただ、色調整に手間がかかったり、本機校正の回数が多かったりする案件は現場に負荷がかかるため、製版や印刷を外注に頼ることがほとんどだった。相談を受けたのはリトグラフ作品の展覧会で、その独特の風合いを再現し、作風に近づけるために最適な用紙の選定と、本紙による校正が欠かせなかった。
色のゼロポイントに
デジタル印刷とのマッチングも
同社では内製比率を高めるため、本紙校正の取り込みを図り、昨年、SCREEN GP ジャパンの印刷本紙校正用インクジェットプリンタ『Proof Jet』を導入していた。すでに本紙校正の実績を重ねていたが、本紙校正以外にも高い色の安定性を活かし、『Proof Jet』をターゲットとしてJapan Colorの認証取得へ動きだしていた。
「印刷機メーカーの協力で色を追い込み、かなり良い状態になった時に、展覧会の図録の仕事が入りました。Proof Jetはデジタルで色を管理するので理論的に出力される色は同じです。動かないゼロポイントができたことで、Japan Color認証がスムーズに取得できました」(岡社長)
小野所長は画家の作風に合わせて、『Proof Jet』で4種類のファンシーペーパーに、展覧会の代表作品2点の印刷データを出力。デザイナー、美術館関係者を交えて用紙を選定していった。作品の見本やデータは美術館から提供されたが、標準的なコート紙に印刷した見本で、印刷データもいつのポジかわからないぐらい色あせていた画像だった。同社ではターゲットとなる実物を見ながら、色を合わせこんで『Proof Jet』で出力。最終的に選ばれた用紙を元に、一度だけ本機校正を出して、クライアントである美術館関係者、デザイナーに『Proof Jet』による色校正紙と本番の印刷の仕上がりを見比べてもらい、承認を得た。
「紙のチョイスから本機校正では現場が大変です。本機校正といっても最低200枚程度を使います。とくにファンシーペーパーでは余計にコストがかかってきます。ヤレ紙が出ないProof Jetにより一番リーズナブルで、かつスピーディーな方法で用紙を選択できました」(岡社長)
用紙が決まってから『Proof Jet』による本紙校正は2回。最後は色を調整したすべての作品を面付して出力した。印刷本紙に印刷できる『Proof Jet』と印刷機が、Japan Colorを軸にマッチングされているというクライアント信頼感も、意思決定までのプロセスを短縮させた。
最終的には約100点の作品を収録した図録となった。折込みで作品を大きく見せるページを設けたほか、PURを活用するとともに、背の用紙を工夫して広開性を高めたドイツ装丁風の豪華本となり、B5判とA3判の2種類を製作した。見開きのノドの部分の絵柄は、製版部門と製本部門が連携して合わせ込んだ。
「高級美術印刷はスタッフもひるむところがありましたが、ノークレームで進めることができました。今回の図録は江戸堀印刷所を評価して頂ける大きなエビデンスになります。Proof Jetを購入して良かったと実感しています。これがなければ現場に負担がかかるのでJapan Color認証を取得していなかったと思います」(岡社長)
オフセット印刷機と同じ用紙を使い、ほぼ同じ色で出力できるため、校正に『Proof Jet』を指定するクライアントも増えた。同社では今年中に『Proof Jet』をターゲットとして、特殊用紙ごとに4、5種類のプロファイルを作成していく。同時にデジタル印刷機もJapan Colorに合わせていき、Japan Colorのデジタル印刷認証の取得も視野に入れている。その中心で同社の標準色の砦に据えられているのが『Proof Jet』で、岡社長は「デジタル印刷機も本紙が刷れるので、現在取り組んでいるオフセット印刷とデジタル印刷を連携させたワークフローが一つ先に進みます」と期待している。
あさひ高速印刷株式会社
大阪市西区江戸堀2-1-13