【インタビュー】GC東京 錦山慎太郎理事長、「生産性シェアプロジェクト」で機械を共同活用、設備をシェアして新しい商売を始めていくために
東京グラフィックコミュニケーションズ工業組合(GC東京)では、2023年度事業計画の組織強化事業として、組合員企業の所有する生産設備のシェアシステムを構築する「生産性シェアプロジェクト」を掲げた。同事業は組合員の生産設備の能力をシェアし、機械稼働率の向上を図ることで価格を抑え、受発注の双方にメリットを生み出し、業務範囲の拡大により各社を発展させ組合活動の意義を訴求することを目指している。同プロジェクトの概要と参加するメリット、今後の方向性を、錦山慎太郎理事長が語った。
東京グラフィックコミュニケーションズ工業組合
(GC東京)
錦山慎太郎理事長
組合参加の意義を、他社の機械を使わせて貰いトライアル
GC東京は2023年度の新しい取り組みとして「生産性シェアプロジェクト」をスタートさせました。「生産性シェアプロジェクト」を始めたきっかけは2022年の7月に開催したGCJ東京大会です。そこで行った若手のパネルディスカッションにおいて、GC東北の高橋健一郎理事から「せっかく組合に入っているのなら、何かあったときにサポートしてくれる体制が必要じゃないか」という訴えがありました。これをきっかけに理事会で災害に対するBCPのみではなく生産の危機管理も出来るのではないかと、話し合いが始まりました。
背景には組合員の中でも実際に設備を持っている企業と持っていない企業が二極化していること。さらに、新しい機材を購入しても稼働率が悪くなることを懸念するのであれば、トライアルとして持っている企業の機材を使わせてもらえばどうかという意見も反映させ、「生産性シェアプロジェクト」に発展しました。
同プロジェクトを利用することによって、機械を持っていない会社であっても営業品目を増やすことが出来るようになりました。同じ機械をGCの組合員の中で3台も4台も並べたところであまり意味がありません。でしたら持っている企業に仕事を出していき、印刷市場を開拓していこうということです。
価格については機械を持っている会社が集まり、各社の原価を出し、すり合わせていき値段基準票、標準原価表を作成しました。この価格が各社へ発注した際の値段になります。基本的にはこの原価を基準に印刷を受注して貰いますが、利益は自由に付けられます。
設備を提供する会社からしますと利幅はそれほど見込めません。一方設備を持たない会社にとっては営業品目が増えるため、これまで受注が出来なかった依頼も受けることが出来ます。
まずはGC東京の理事の中でトライアル的に動かすということで今年の6月から試験的に始めました。
現在、目立った動きはありません。動いていない理由としては、今までお付き合いがあった会社との取引が既にあり、急に変えられないことがあると思っております。加えて、営業と打ち合わせしたいということがあるのかもしれません。
打ち合わせの形態を変えてしまうのが不安だという意見もあります。あるいは営業マージンを乗せて売るということになるため、営業が消極的になっているということもあるのかもしれません。動いていない理由は現在調査をしており、改めて各社の情報を聞きながら調整をしていきたいと思っております。
「生産性シェアプロジェクト」の活用
現在はGC東京の理事メンバーでテストをしている段階ですが、他のGCの組合員から「いつ我々も参加できますか」という問い合わせも頂いております。そのため理事の中だけでトライアルをするのではなく、対象を広げていくことも考えています。
生産性シェアプロジェクトを通して実現したいことは、各会社でこれまでできなかった仕事にも手を出して欲しいということです。
最終的には印刷通販みたいな形のサイトが作れたらいいなと個人的には思っております。GCJのサイトに入って行って、見積もりを出して受注に繋がるみたいな形が取れたら素晴らしいですよね。そこに向けて、各社がまずアナログでやろうということなのです。
今は印刷が中心ですが、将来的にはデザイン制作やデータ作成などの分野も加えられるかもしれません。スキャナを使ってアナログデータをデジタル化する事業を行っている会社もありますが、こうした品目も加えることができればビジネスはまた広がるのではないでしょうか。現在、生産性シェアプロジェクトで生産設備を提供しているのは厚紙印刷で㈱共栄メディアと㈱マル・ビ、平版印刷が㈱セントラルプロフィックスと㈱光陽社、デジタル印刷として枚葉対応の東京平版㈱と大判インクジェットの㈱セントラルプロフィックス。そして、うちわ生産の㈱光陽社です。
生産性シェアプロジェクトを通して私が一番望んでいるのは、各社に生き残って欲しいということです。製版は専業で生き残っている企業はありますが、徐々に規模感が小さくなってきています。組合を脱退する理由について、後継者もいないため「もうやめようと思っているんだよね」と言う会社も多くあります。組合員が減ると組合の運営も苦しくなります。少しでも会社間で協力して、組合に入っている企業が発展していけるようになればいいと考えております。
参加企業の発展と生き残りのために
生産性シェアプロジェクトを使って受注を始めた仕事が軌道に乗って、沢山仕事ができるようになり、新しい機械を買うという話になることを期待しております。そのためにもまずは試しに他社が保有している機械を使い、新しい営業を始めてみるということです。
様々なメーカーの方には、生産性シェアプロジェクトについてお話ししています。「動いてない機械よりもこれだけ動いているという事例が出てきた時は、その企業に機械を提案してください」と、説明させて頂いています。
組合員は友達である一方、ライバル関係でもありました。仕事のやり取りや交流は今までもあったのですが、腹を割って話し切れていませんでした。しかし、今回のプロジェクトを始めたことで密な情報交換が出来るくらいに親密な組合になりつつあります。
印刷業界は、基盤がしっかりしている印象があります。ですので今回のような企業間連携の仕組みが問題ないと分かれば、一歩踏み出すことが出来るのではと思っております。
会員企業が協力し合い、出来ることを増やしていく
これからは元々の目的にありました、様々な品目を扱えるようにしていくということを目指していきたいと思っております。その結果としてGCJの中で普段から仕事を出し合う関係作りができ、一緒に大きな仕事も協働できる関係になるといいと思っております。
まずはGC東京の中から始めて、次にGCJの全体に広げていきたいと思います。それが成功したら、自分としては他の組合員の方々にもプロジェクトに加わって頂けるような仕組みとなれば素晴らしいのではないでしょうか。
今後の展望としてはまず扱う品目を増やしていきたいと思っております。ソフト面であればデジタルサイネージなどもありますから、メニューに加われば面白いかもしれません。各企業が強みにしているサービスメニューを品目としてどんどん増やしていけたらいいと思っております。
今はコロナ禍が明けて「何か作らなきゃ」というタイミングですが、まだ各社とも本当に自分たちの得意な領域しか展開できていません。各営業が「こういうものがあるのだったらチャレンジしてみよう」と思って貰い、「それと、これとこれも」という追加の提案が出来るようにして、事業を広げていくきっかけになることを願っています。