【インタビュー】お客様に寄り添い 課題を解きほぐす~リコーグラフィックコミュニケーションズBU プレジデント 宮尾康士氏

 今年1月、リコーグラフィックコミュニケーションズ(以下RGC)ビジネスユニットのプレジデントに株式会社リコー コーポレート執行役員の宮尾康士氏が就任した。同ユニットはリコーの5つのカンパニーの一つで、主に商業印刷、産業印刷、企業内印刷、インクジェットヘッドの事業ドメインで、デジタル印刷の推進、印刷現場の生産工程の自動化、紙と電子を融合したマーケティングコミュニケーションの提供などを進めている。今年3月に発表されたリコーの第21次中期経営計画で、RGCの2025年までの売上目標は2,800億円。宮尾プレジデントに目標達成に向けた戦略などを伺った。

商業・産業印刷事業を第2の柱に
オフセットtoデジタルで成長加速

――ご経歴を教えて下さい。

 社会人になって最初に就職したのは製版機メーカーでした。そこで製版用ハイエンドスキャナーのマーケティングを担当し、海外にも赴任しました。リコーに入社したのは2000年です。

 リコー入社後は海外のプリンター商品のマーケティングを担当し、米国に駐在中にプリンターのネット販売を手がけました。また、スマートフォンの前身である携帯端末で出力できるプリンターや、企業、教育機関向けの商品などの開発から販売、サービスまでを手掛け、現場に張り付いて仕事をしていました。

 その後、MFPの事業戦略を担当し、2018年から駐在した中国で、オフィスや商業印刷の領域の責任者に就きました。昨年10月1日に、RGCビジネスユニットに配属され、今年1月、プレジデントに着任しました。

 現場で仕事をすることがもともと好きで、キャリアを通じて学んだことは〝赤字は皆を不幸にする〟ということです。

リコーグラフィックコミュニケーションズBU
プレジデント 宮尾康士氏

――印刷業界でキャリアをスタートされ、その後、しばらくは業界と離れた領域におられました。商業印刷を担当することになり、以前と変わった点を感じましたか。また中国と日本の印刷市場の違いを教えて下さい。

 リコー入社後は商業印刷領域と異なるオフィス系ソリューションの領域を担当しましたが、米国ではプロダクションプリンターが教育機関や教会にも導入されていましたので、比較的近いフィールドにはいました。

 印刷市場ではこの間、様々な工程で“レス”が進んだと思います。製版における“フィルムレス”、現在進行形の“プレートレス”、省力化による“レイバーレス”です。一方で、“フル”の部分も見られます。コンテンツがよりパーソナライズされ、データの種類や印刷のバリエーションが増えました。どんどんフルカスタムに近づいています。

 中国はコロナ禍でも印刷市場が伸びていました。ロックダウンで人の動きが止まった時に、印刷の量は一度急激に沈んだのですが、回復も早く、大学や行政の印刷を担う街のコピーセンターなどの需要は旺盛で、設備投資意欲も衰えなかった印象です。経済的に豊かになったので、より高い品質を求めて、かつて日本や欧米から輸入した中古機から新製品への更新需要も多い状況でした。

 日本の印刷市場全体は縮小傾向ですが、デジタル印刷の分野は伸びています。また、経営者の方のお話を伺うと、縮小する市場の中でも活路を見出し、市場を活性化させるために経営者間のアイデア交換を大事にされていると感じます。若い人材の獲得と育成、専門技能を持つ社員の高齢化にも悩まれている印象です。

――3月にリコーの第21次中期経営戦略が発表されました。RGCとして目標値達成への道筋をどうお考えですか。RGCの売上増加率の目標値はリコー全体よりも高い数字となっています。

 RGCには大きく4つの事業ドメインがあります。商業、企業内、産業の3種類の印刷業向けビジネスと、プリンターに搭載するインクジェットヘッド外販のビジネスです。企業内印刷以外の3つの事業ドメインは成長しており、まず、伸びている分野にリソースを投入していきます。

 商業印刷の領域は、今年は新製品を投入することで先進国の“オフセットtoデジタル”を加速させます。デジタル印刷はもはやオフセット印刷と遜色がなく、“オフセットtoデジタル”の移行が進むと見ています。

 地域的には高い成長が見込まれる中国、インドネシア、インドの市場を強化していきます。印刷現場のプロダクションワークフローの強化も重点施策の一つです。パーソナライズされたジョブの増加は現場の仕事の量を増やしますので、プロダクションワークフローによる自動化が不可欠となります。かつ、多品種小ロットの中では、一つ一つのジョブの収益を把握することが重要で、単品収益の可視化が必要です。

 労働力だけで生産性を向上させ続けようとすると、現場が疲弊する状況に陥るリスクがあります。デジタル印刷機やプロダクションワークフローによる自動化はこれから避けて通れません。例えば、4つのトレイに用紙を積み、夜間運転して朝に仕上がっている生産体制です。当たり前なのですが、バックボーンには機械の操作性と安定性が必須です。信頼性が高いハードと、ワークフローを組み合わせることで実現できます。お陰様で当社のフラッグシップ機である『RICOH Pro C9200シリーズ』は海外、国内ともに操作性、安定性ともに高い評価を頂いています。

 生産性を高めるプロダクションワークフローに加え、創注につながるマーケティングワークフローはこれから注目される分野です。

 米国のあるお客様は自宅のガレージで、レーザープリンター1台でWebプリントサービスを始め、Webから注文が来ると店に用紙を買いに行き、プリントして届けていました。それが7、8年で従業員70名を抱え、リコーのデジタル印刷機40台を保有する規模に拡大しました。

 ポイントは発注者のデータ資産のマネジメントを始めたことです。例えば、お客様が各拠点の住所や営業担当者の氏名を変えてバージョニングしようとした時に、保管した印刷データをすぐに探し当てられるようにして利便性を高めました。さらにはいつ、どれぐらい、何を発注した、どの販促物をどのぐらい使ったら売上が伸びたかなどを可視化し、マーケティングデータとして活用することを可能にしました。お客様の創注に貢献することで、業績を急速に拡大したわけです。

 RGCとしてもマーケティングワークフローはこれからさらに広げていきます。リコーは全社を挙げてデジタルサービスの企業を目指しているのですが、RGCが提供するワークフロー製品はそれを体現した一つのソリューションです。

“はたらくに歓びを”を基軸に

――先ほど日本の印刷経営者の課題に触れられました。活路を見出そうとしている印刷会社に対し、どういうソリューションを提供していきますか。

 新しい活路を見出すのが簡単ならば皆、悩むことはありません。日々の業務の改善と、業態を変えていくためにはパワーが必要です。リコーはそうした力を提供し、サポートしたいと考えています。その上で、お客様が新しい領域に踏み出すサポートをする時に、三つのパターンを想定しています。

 一つ目がトランザクションのような統合、合併で規模が拡大する領域です。そこでは高い生産性、ダウンタイムの削減、自動化、省力化などのお手伝いが求められてきます。

 二つ目が商業印刷の領域です。ここではネット対応力の強化、小ロット化に対するワークフローの活用、損益の可視化に加え、既存設備の自動化などのサポートを提案していきます。

 この二つが日々の業務改善のサポートで、三つ目が業態変革へのサポートです。マーケティング機能の取り込みや、クライアントの業務プロセスへの支援などで、我々にお手伝いができるのではないかと考えています。

 企業ごとに経営課題が異なるので、いずれのパターンでもお客様ごとに違うお役立ちを模索していくことになります。それにはお客様の課題に寄り添うことが重要です。

 RGCが扱う製品は生産設備です。私たちはこの市場で勝ちたいと思っていますが、それにはお客様に成功して頂くしかありません。そのために商業印刷市場へ人的リソースを振り分け、国内ではリコージャパンの全国の各拠点にプロダクションプリンティングの専任者を、海外ではグラフィックコミュニケーションズ専任者を置きます。なぜなら外的環境の変化に伴って、お客様の経営課題がどんどん複雑化しているからです。課題を解きほぐして解決するリソースとして、商業印刷のお客様と経営課題についてお話ができ、適切な成功事例やソリューションを提供していく人員を配置しています。

 加えて、この専任者はお客様とRGCの技術サポート部門のインターフェイスになっており、ニーズやご要望を反映させた技術の開発につなげていきます。現場とモノづくりをつなげていくのが専任者の役割といえます。

 そこにはスーパーアンサーはありません。地道にお客様の信頼を得て、経営課題を打ち明けて頂ける関係を築き、日々、知識獲得と技術力向上を目指す当然の積み重ねでしか実現できないものです。何よりお客様に寄り添い続けることが大事だと考えています。

――リコーはESG(環境・社会・ガバナンス)と事業成長の同軸化を打ち出しています。RGCとしてどう取り組みますか。

 第21次中計では、目指すべき持続可能な社会の実現に向け「はたらくの変革」、「地域・社会の発展」、「脱炭素社会の実現」、「循環型社会の実現」、「責任あるビジネスプロセスの構築」、「オープンイノベーションの強化」、「多様な人材の活躍」の7つのマテリアリティを設定し、2025年までのESG目標を定めています。現業を進めながら、社会課題の解決に対峙していくのではなく、日々の業務の中に社会課題の解決が包含されるように目標を設定しています。RGCでも日々の業務の目標値に、ESG目標を落とし込んでいます。

 商業印刷の領域では経営課題が複雑化し、かつ市場が伸びていません。リコーとしてはデジタル技術でコストを下げ、小ロット印刷への対応力を上げ、大量の廃棄物をなくし、収益・仕事の流れを可視化し、設備の自動化でサポートしていきますが、そのベースになるのが、お客様の従業員の働き甲斐です。働き方の変革は社会課題の一つであり、私たちが掲げる“はたらくに歓びを”に連なっています。

 “仕事を創る”、“仕事を回す”、“仕事が見える”の実現を目指すお客様との共創活動『RICOH BUSINESS BOOSTER』は、ESGと事業成長の同軸化を可能にするものと考えています。RGCが印刷業の方々に提供できる“はたらくに歓びを”は何だろうか。自動化や省力化によって現場で働く人たちの時間の創出や、よりクリエイティブな仕事への移行、ケミカルな作業環境からクリーンな作業環境への転換など、側面から働き甲斐をサポートし、お客様ごとに異なる課題に寄り添い続けてまいります。

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