IGAS2015 FFGSセミナーレポート Adobeが目指すデジタルデバイス戦略とは
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズは9月11日から16日にかけて開催された国内最大の印刷機材展『IGAS2015』の会期中、5つのテーマで最新の市場動向やソリューションの活用事例などを紹介するFFGSセミナーを開講した。本稿では、9月14日、アドビシステムズ社のMark Lewiecki氏を講師に迎えて開催した「Adobeが目指すデジタルデバイス戦略とは」の概要を紹介する。
Mark Lewiecki氏
■Adobeが提供するクラウドサービス
Adobeは、すでにリリースしている『Adobe Creative Cloud』『Adobe Marketing Cloud』に加えて、2015年3月、新たに『Adobe Document Cloud』という3本目のクラウドサービスの提供を開始した。まず、Adobe Creative Cloud(CC)について紹介する。
CCは、紙媒体、Web、モバイル、ビデオ・オーディオなどの分野に向けて提供する、最もパワフルなデザインアプリケーションである。ユーザーは、個々のアプリケーションを選んで利用することも、月額5,000円ですべてのアプリケーションを使うことも可能である。
CCを使うことで、ユーザーは、あるデバイスで開始した作業を、異なるデバイスでもそのまま続けることができる。その際、ファイルやフォント、写真、デザインのアセット、設定、メタデータなどがすべて同期し、つねに最新の状態で使えるようになっている。現在、毎月350万人にCCをご利用いただいている。
最近では、Adobe Brush、Adobe Shapeなど、モバイル用のタッチアプリケーションを新たに導入している。これらのアプリケーションを通じて、デザイナーは実世界からさまざまなアイデアをタブレットやスマートフォンで取得し、活用することができるようになった。また、こうした情報をCCのアプリケーション、たとえばIllustratorやPhotoshopなどで使える形式に変換することも可能である。
新しく提供を始めたAdobe Document Cloudは、クラウドベースのドキュメントサービスで、これにより、Acrobatがタブレットやモバイル端末でも使えるようになった(料金は月額1,380円から)。Acrobatのインターフェースなどはすべて一からつくり直したことから、ツールなどはより見つけやすく、また使いやすいものとなっている。
■ワークフローの信頼性を高めるAdobe PDF Print Engine (APPE)
APPEはPDFプリントワークフローの中で最も広く使われ、また急速に成長しているRIPテクノロジーである。実際、世界中で現在12万台のシステムが稼働している。また、当社で行なった研究結果では、APPEが最速のRIPであること、とくに透明効果、スポットカラー、スムーズなシェードなど、複雑なグラフィックの処理において最速のRIPであることが実証されている。
また、APPEは、最も信頼性の高いレンダリングテクノロジーでもある。グラフィックがどれだけ複雑であっても、最終的な印刷物がAcrobat Readerなどのデジタルソフトプルーフと一致することが保証されている。
ワークフロー全体で一貫して当社のテクノロジーを活用することで、さまざまなジョブをトラブルなく安定して進められることはもちろん、システムのより柔軟な運用も可能になる。たとえば、下版直前の修正対応や、複数の印刷機で同時にジョブを走らせるといったことも可能だ。APPEを使うことで、Adobe以外のアプリケーションで作られたPDFファイルもアウトプットできるようになる。
富士フイルムのワークフローシステム『XMF Ver.6』には、Adobe Mercury RIPアーキテクチャが搭載されている。Mercury RIPアーキテクチャを使うことで、APPEの機能を拡張させ、バリアブルデータ印刷(VDP)のジョブをデジタル印刷機で高速印刷することが可能になる。これは、最新のマルチプロセッサコア環境を最大限に活用することで、リアルタイムに高速なバリアブルデータ組版が行なえるためである。
Mercury RIPアーキテクチャは、PDF VT形式のサポートや、ページの並列処理など、高速・大量のデジタル印刷に対応した機能を持つ。また、ダイナミックな負荷分散のサポートや、APPEに対するダイナミックなインスタンスの割り当ても可能であることから、同一ネットワーク上の複数の印刷機から同時に出力したり、ネットワークの通信量を最小限に抑えたりといったことが可能になる。
なお、Mercury RIP アーキテクチャの詳細については、調査会社IDCのホワイトペーパー(白書)にパフォーマンステストの結果なども含めて紹介されているので、ぜひご参照いただきたい。英語版および日本語版のホワイトペーパーは、AdobeのWebサイトから入手可能となっている。
■富士フイルムとAdobeの連携
富士フイルムと当社の関係は、すでに20年以上続いている。厳しい状況にある印刷市場において、私たちは今後も積極的に連携をとりながらイノベーションを進めていくことをお約束する。
APPEについては、当社が2006年にリリースした後、2007年に富士フイルムが我々の初のOEMパートナーとしてRIPに採用。PostScriptからPDFへの切り換えを促進した。こうした流れを通じて、APPEが最新のXMFワークフローに組み込まれることとなった。現在、XMFは、Mercury RIP アーキテクチャを採用し、それによってオフセット印刷・デジタル印刷双方の市場において、最も進んだワークフローソリューションとなっている。
■バリアブルデータ印刷(VDP)の活用による市場開拓
デジタル印刷機による印刷量は、現在、年率およそ9%という非常にハイペースな成長を遂げている。その一方で、オフセット印刷量は減少している。このペースが続けば、デジタル印刷量は、約23年後にはオフセット印刷量を上回ると予測される。
アプリケーション(印刷物の種類)別では、パッケージ分野が大きな注目を集めている。業界アナリストによれば、デジタル印刷機によるパッケージ印刷の売上が年間20%以上の成長を遂げると予測されている。
デジタル印刷によるパッケージは、従来型のフレキソ印刷やグラビア印刷と比較するとコストは高めではあるが、実はさまざまな重要な価値を提供することが可能である。たとえば、シーズンごと・地域ごとに異なるパッケージの提供、および販促キャンペーンの容易な実施、といった価値を提供することができる。
ダイレクトメール(DM)も、デジタル印刷により急成長を遂げている。DMは、2024年にグローバルの印刷業界で700億ドルの売上が見込まれる分野である。デジタル印刷機を用いればパーソナライズが可能であるが、現時点で実際にパーソナライズされているのはほんの2割である。これは、バリアブルデータ印刷(VDP)によってDMのマーケティング効果を高める非常に大きなチャンスであることを示している。
ところで、VDPは、商業印刷の領域でPDF以外のフォーマットが広く使われている唯一の分野である。PDF VTはVDP向けに最適化されたPDFの変形バージョン(亜種)で、ISOで規格化されており、その仕様は2010年に発行、その翌年(2011年)にPIA(米国の印刷業界団体)によって認められた。
PDF VTにより、印刷会社はVDPの生産環境においてPDFのメリットを享受できるようになった。つまり、カラーマネージメントを含むPDFワークフローを、そのままVDPのジョブにも当てはめることができる。つまり、PDF VTの活用によって、異なるワークフローを用意することなく、パーソナライズを通じてクライアント企業の販促効果向上に貢献することができる。この機会をぜひ生かしていただきたい。