GPTW Japan 仕事に全力投球するのを止め必要最低限で働く「静かな退職に関する調査2025」を実施 静かな退職をする4割は職場への影響に自覚ナシ
Great Place To Work® Institute Japan(以下GPTW Japan)は、 2024年12月、企業に勤める20~59歳の男女13,824名を対象に、「静かな退職に関する調査2025」を実施した。その結果、「静かな退職」実践者の4割は「静かな退職」による職場への影響を自覚していないことが分かった。
静かな退職とは…
仕事に全力投球するのを止め、必要最低限の業務をこなす働き方のことで、退職・転職するつもりはないが、積極的に仕事に意義を見出さない状態を指す。アメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリー氏が2022年にこの言葉を説明する動画を公開したことをきっかけに広まり、現在では若手中心の働き方トレンドとして日本でも認知されつつある。
労働人口の減少や働き方改革に伴い、生産性向上への意識が高まっている中、静かな退職という働き方は企業にとって逆風となってしまう可能性がある。そこで、静かな退職の実態を明らかにすべく、GPTW Japanでは約1年前に「静かな退職に関する調査2024」を実施した。その結果、静かな退職を実施している人のうち、働き始めてから静かな退職を選択するようになった人が71.0%にも上り、静かな退職を選択する多くのきっかけは入社後に発生していることが分かった。また、静かな退職を実施している人の約4割は、「勤め先の環境で変化があっても働き方は変わらない」と回答しており、静かな退職を選択した後に企業側がその選択を覆そうと働きかけても、効果は小さく手遅れ状態であることが分かった。
この調査により従業員が静かな退職を選択するきっかけや企業の対策を打つべきタイミングは明らかになった一方で、静かな退職が職場に及ぼす影響については未だ不明な点が多く存在する。
インターネットにて実施した「静かな退職に関する調査2025」は、今後静かな退職を実践する人が増えた場合、組織の「働きがい」にどのような影響を与えるのかについての調査となっている。その結果、2024年1月から12月にかけて静かな退職は増加しており、また「静かな退職」実践者の4割以上が職場への影響はないと考えていることが分かった。

静かな退職の増加
回答者の年齢構成比を昨年調査と揃えて集計したところ、「静かな退職」実践者は微増していたことが分かった(前年比0.4%増)。年齢別に見ると、「静かな退職」実践者の割合は25歳から29歳、35歳以上の年代で増えており、ほぼすべての年代で増えていることが分かった。現時点での実践者の割合は低いが、今後更に実践者が増えていく可能性が示唆される。
静かな退職の認知度についての設問では「見た、聞いたことはある」と答えた人は全体で約3割であった。若手の働き方トレンドとしての報道が多いからか、20代は静かな退職を知っている人が比較的多い。
職位ごとの認知度を見たところ、今回調査の対象となった経営・役員、部下を持つ管理職、一般従業員の3つの職位の中で、経営・役員間の認知度が相対的に低いことが分かった。現場の従業員、管理職まで「静かな退職」の認識が進む中で、経営・役員の認識が追い付いていない様子が伺える。

また、静かな退職を知っており部下がいると答えた管理職に対し、それを実践している部下と仕事への意欲や熱意を持つ部下それぞれがいた場合、上司として対応が変わるかという設問では、「静かな退職」実践者のマネジメントに、仕事への意欲や熱意を持つ部下と同等かそれ以上の時間をかけると回答した管理職は77.9%に上った。管理職は「静かな退職」という働き方を知ってなお、公平にマネジメントしようと努める傾向があると言える。

さらに、「静かな退職」実践者に対して、将来に不安を感じることがあるか聞いたところ、「収入が増えないかもしれない」(41.2%)、「仕事のスキルが上がらないかもしれない」(33.0%)が上位に並んだ。一方で、「職場で孤立してしまうかもしれない」は5.4%に留まり、「静かな退職」実践者は収入やスキル面での不安を抱えているが、職場での孤立は不安としていないことが明らかになった。「静かな退職」による職場への影響は4割以上がないと考えている。

静かな退職の職場への影響
「静かな退職」の職場への影響について、上司層(経営・役員、部下あり管理職)と「静かな退職」実践者それぞれの回答を比較した。その結果、「静かな退職」実践者の4割以上が職場への影響はないと回答していた一方で、上司層で同じように回答した人は11.9%に留まった。「静かな退職」実践者より上司層のほうが、職場への影響があると感じていることが分かった。
上司層は「周囲から期待されなくなる」「仕事量の偏りによる不満が募る」「連帯感が低下する」等を主な影響として捉えているようだが、「静かな退職」実践者はいずれも影響として見なしている割合が少ない。特に、「職場への不満」「連帯感の低下」は上司層と「静かな退職」実践者とで20pt以上の差がある。「静かな退職」実践者は自身の影響を客観的な視点から把握できていない可能性が示唆される。

「静かな退職に関する調査2024」では、静かな退職に至った人のきっかけの多くが入社後であったことが分かった。特に、入社時には希望に満ち溢れていた若手が、入社後の会社と個人の関係性の中で静かな退職という働き方を選んでしまっている事実には危機感を感じている。企業は静かな退職を単なる若手の価値観の多様化と見過ごすのではなく、対策を打つことが求められている。
静かな退職を放置した場合にもたらす影響
今回の調査で「静かな退職」実践者は職場内での孤立も厭わず、「自分は自分」という姿勢であることが分かった。GPTW Japanでは長年の研究から「働きがいのある会社」を作るには、従業員とリーダーの信頼を構成する「信用」・「尊重」・「公正」、従業員と仕事の関係性を表す「誇り」、従業員とチームの関係性を表す「連帯感」の5つの要素が重要と提唱している。静かな退職はこの中でも特に「連帯感」に悪影響を及ぼすことが見て取れる結果となっている。また、「静かな退職」実践者の増加は職場の「働きがい」低下を招くことが示唆される。
「静かな退職」実践者は管理職にとって、マネジメントの負担を高める要因となることが考えられる。今回の調査から「静かな退職」実践者と上司層の間には、仕事をする上で一人ひとりが職場に与える影響について、価値観や考えの違いがあることが確認できる。静かな退職を実践している人に、働き方を見直して積極的に仕事に意義を見出してもらうためには、中間管理職が一人ひとりに期待をかけ、プライベートとの両立が実現できるキャリアの道筋を共に描いていくなど、きめ細かなマネジメントが求められる。一方で中間管理職の権限では解決できない異動配置や評価基準の見直しが必要な場合もある。対処を現場任せにすると中間管理職の負荷ばかりが積み上がる危険性がある。
