OpenFactory マスカスタマイゼーションを実現するエコシステム

OpenFactory マスカスタマイゼーションを実現するエコシステム

ECと工場をつなぐオープンプラットフォームを提供

 株式会社OpenFactoryは、個別化されたあらゆる印刷アイテムを大量生産する“マスカスタマイゼーション”の実現に向け、オープンプラットフォーム『Printio API』を発表した。『Printio API』はデジタル印刷に取り組み、特徴あるビジネスを展開する全国の印刷会社と利用者を結びつけ、オリジナルの印刷アイテムを届ける仕組み。同社代表取締役の堀江賢司氏は「ディスラプターのように囲い込みをはかる排他的プラットフォームではなく、あくまで開かれたオープンプラットフォームを目指しています」と述べる。

世界一ワクワクする印刷工場 HappyPrinters

 同社は2013年、東京都渋谷区に個人のクリエイターやデザイナー向けに専用機を使ってモノづくりができるデジタルシェア工房『HappyPrinters』を開設。“世界一ワクワクする印刷工場”をコンセプトに、ミマキエンジニアリングのA3判卓上型UVインクジェットプリンターと大判インクジェットプリンターを設置してサービスを開始した。その後、レーザー加工機も導入し、プラスチック、木材、アクリル、羽、布、ターポリンなどの素材から自由に印刷アイテムが作れる工房として運営されている。現在、『HappyPrinters』にはA2判卓上型UVインクジェットプリンター『UJF-6042 MarkⅡ』とレーザー加工機、テープ印刷機が常設されている。

代表の堀江賢司氏

 代表の堀江氏は大学卒業後、広告代理店を経て、2010年に家業である堀江織物株式会社に入社した。堀江織物は、シルクスクリーン印刷機やダイレクト捺染プリンター、昇華型プリンター、溶剤プリンターにより、のぼりや旗・幕などファブリック(布)の印刷を手掛ける印刷会社。2000年には大判インクジェットプリンターを導入し、早くから小ロット・多品種に適合した生産体制を構築していった。2019年にはダイレクトガーメントプリンターによるアパレルオンデマンド事業に着手するなど、工場内のイノベーションと商材の拡大を進めている。

 その一方で、堀江氏は小ロット・多品種対応といいながらも同一品の複製や規格品を前提にした従来型の印刷モデルに限界を感じていた。覆いかぶさった天井を突き抜けるには、既成概念に捉われずに印刷を定義し直す必要があった。

 2013年、堀江氏は堀江織物に籍を残しながら株式会社OpenFactoryを創業。デジタルシェア工房では初めて卓上型UVインクジェットプリンターとレーザー加工機の組み合わせで印刷アイテム制作を始めたと言われているHappyPrintersをオープンし、個別品を大量生産するプランを温めてきた。マスカスタマイゼーションという概念が国内でほとんど認識されていないところである。

 HappyPrinters自体は、印刷業界の常識から異端に見える。現在、立地している東京・南青山は一等地。クリエイターやデザイナーからの収入と、サービス内容が釣り合わないことは想像できる。印刷業界関係者の見学者は多かったが、その本質に触れることができたのは極わずかだった。

ミマキUV IJ機が可能性を拡げる

 OpenFactoryにとってHappyPrintersは、単なる店舗型印刷サービスの拠点ではない。役割の一つが研究開発。創造意欲の高いクリエイターやデザイナーは工房に様々なアイデアを持ち込む。素材とデザインの組み合わせで無限のクリエイティブが生まれ、そのノウハウが集合知となって工場のプロダクトに活かされる。

 構想実現に向けて、モノづくりの側面から技術的な土台の一つとなったのはミマキエンジニアリングの卓上型UVインクジェットプリンターだった。「最初に見た時には驚きました。アクリル、木にも印刷できるので、すごいなという印象を受けました」。印刷のマスカスタマイゼーションは、あらゆる素材にデジタルで印刷できることが前提となる。ミマキの卓上型のUVインクジェットプリンターがその可能性を拡げた。

 しかし、UVインクジェットプリンターといえども、インクと素材の相性や、デザインによって印刷アイテムの出来栄えが左右される。何に印刷すると美しく、何が不得意なのかという見極めと、どうすればできるのかというトライ&エラーは、印刷アイテムのマスカスタマイゼーションにとって目に見えない大きな価値として蓄積される。

 もう一つが、顧客接点の変革である。人手に頼って大量に個別品を受注することは不可能。適正な価格で自分だけの特別な印刷アイテムを提供し、利用者に“喜び”を届けるマスカスタマイゼーションを確立するには、ECサイトと工場をつなぐ必要がある。

 OpenFactoryではオリジナルの印刷商材という切り口で、モバイルバッテリーやハンディスキャナー、文具のメーカーの顧客接点の改革をサポートしている。メーカー・事業者が自社のECサイトや外部のグッズ販売のECサイトで、オリジナルのデザインが印刷できる自社商品を販売。HappyPrintersが製造を受託し、店舗内のUJF-6042MarkⅡやレーザー加工機、テープ印刷機で印刷・加工後に発送する。自社で製造できない商材はデジタル印刷機を設備するパートナー企業に振り分ける。

生産機として、R&Dツールとして活用されるミマキのUJF-6042MarkⅡ

顧客接点を変革するPrintio API

 ポイントになるのは外部のECサイトと製造受託業者のシステムと結びつけるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)である。製造する現場に、利用者から受注した仕様情報・顧客情報・印刷データ・編集データなどを円滑に送るため、必要となるパラメーターを変換する。

 堀江氏は「メーカーや事業者と、商品をカスタマイズするビジネスを一緒に立ち上げています。メーカーや事業者はパーソナライズビジネスを展開し、カスタマーリレーションを高めたいと考えています」と述べる。メーカーが消費者と直接結びつき、代理店や小売を通さず商品を直接販売するとともに、より良いマーケティングや商品開発の施策に購買履歴や顧客特性の情報を活用する“D2C”は、ECとマスカスタマイゼーション生産が基盤となる。

 今年1月27日に発表した『Printio API』は、様々なECサイトと印刷工場をつなぐオンデマンド印刷のオープンプラットフォームである。製造ステータスや送り状番号の連絡など必要な付帯情報がECサイトと印刷工場の間でストレスなくやりとりできる。

様々な印刷アイテムの提供を目指す

 「印刷工場にローカルな付帯作業が発生しないよう、プラットフォーム上で商材に最適な形で面付や色変換などを完了させることが目的です。データを受ければ印刷工場の設備が動き、商品が出来上がることが理想。Webから受けた印刷データが、オペレーターの人的処理なく直接出力されることがラストワンマイルです。これが可能になれば製造現場から離れていてもプリンターがコントロールできます」。Web上で印刷データが流通し、遠隔地で商品の“分身”が自由に製造できる世界。その仕組みをオープン化し、イノベーションを起こすことが堀江氏の狙いで、キャッチアップするのは世界各地で個人による自由なものづくりを可能にした『ファブラボ』である。

 HappyPrintersではクリエイターやデザイナーの利用時間外に、マスカスタマイゼーションでオリジナルの印刷アイテムを生産。加えて堀江氏は顧客接点を変えたいメーカーや事業者にコンサルテーションを提供している。堀江氏は「ビジネスの新しいエコシステムを作りたいのです」と、消費者、メーカー・事業者、印刷サプライヤーがバランス良く相互依存する生態系の構築に向けて力を込める。

Printio APIのイメージ

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