松下印刷 PrintSapiensで改革のスタートラインに
“見える化”の先にある目標に向かう
松下印刷株式会社(徳島県徳島市/松下浩社長)はJ SPIRITSの経営情報システム(MIS)『PrintSapiens』を導入して“見える化”に取り組み、様々な業務の改善、改革に着手し始めた。MISの運用を阻む障壁の一つが社内体制と言われている。優れたソフトウェアでも、必要な情報が入力されなければ思ったように動かない。同社もPrintSapiensの機能を引き出すまでに試行錯誤を重ねてきた。同社が“見える化”までに至った経緯と、現状について話を聞いた。
平均年齢50歳からの改革
見える化へプロジェクト発足
松下印刷は1941年に創業し、現在、本社がある徳島市をはじめ、大阪、愛媛、香川、東京に拠点を構えている。従業員は90名。主に商業業印刷を中心に事業を展開している。
東京の関連会社に勤めていた現社長の松下浩氏が徳島市の本社に戻った18年前、会社の平均年齢が50歳を超えており、パソコンも1、2台を共有する旧態依然の状態だった。デジタル化どころか、手書きで工程別に色分けした複写式の作業伝票を起こして、各部門に配布していた。
2007年に社長に就任した松下氏は業務の改革に着手。企業としてのミッション、ビジョン、行動指針を策定し、経営の方向を示した。2009 年にはPrintSapiensを導入して紙の伝票を廃止し、MISによる管理体制を構築していった。
「手書きの伝票と言葉による情報伝達なので、言った言わないが横行していました。そうした文化を変えようというのがスタートラインでした」(松下社長)
導入当初、PrintSapiensはほとんど機能しなかった。情報を入力しなければMISは動かない。「笛吹けど踊らず、いくら言っても入力作業が進みませんでした」と、改革は思うように進まなかった。
改革に着手して4年間で当時120人いた社員のうち、70名が退職。定年退職もあったが、多くが改革についていけずに自主的に会社を去っていった。しかし、そうした血の入れ替えにより、徐々に変化が現れていく。
PrintSapiensは機能し始め、請求書の発行や紙の在庫管理で重宝できるまでになった。一方で経営指標となる数値の算出や、数値をもとにした業務の改善など、MISの本来の能力を引き出せてはいなかった。市場での競争は年々激しくなってくる。松下社長はMISを活用した数値管理の必要性を感じていた。
「こうした時代、印刷需要が減ることは明らかです。生産性の向上、無駄の排除、お客様のフォロー強化をどうするかを考えた時に、単に“生産性を上げよう”、“損紙を減らそう”といっても社員には感覚しか伝わりません。指針となる要素を見える化したかったわけです」
2017年、統括本部長の福島洋志氏を中心に『見える化プロジェクト』を発足し、社内の仕組みやルールの再構築に着手。プロジェクトはJ SPIRITSの地代所伸治社長、日本印刷技術協会の花房賢氏の協力を得て本格的に動き出した。
単品損益を可視化
競争に勝ち残る
基軸にしたのは単品損益管理である。受注案件ごとの収益を可視化し、収益の低い案件の原因を探って対策を打っていく。まず、必要なのは、単品損益管理に必要となる標準原価の算出と、実際原価の数値を確実に入力していくための社内体制の整備だった。見積りで使われる標準原価と、生産にかかった実際原価を比較し、その差を見ていけば、問題のある案件が判明する。
「本当に儲かっているのか、儲かっていないのか、月次決算でなければ分からない状況でした。今月は売上が良いのに、なんで利益が少ないのだろうと。儲からなかった理由を一つ一つかみ砕いていける数字が必要でした。そのために単品損益が見たかったのです。例えば送料をもらっていないのはなぜなのか。お客様に少しでもいただけませんかというアクションができないのか。厳しい時代になってきて、熾烈な戦いになっています。勝ち残るために単品損益管理は必須と考えました」(松下社長)
見える化プロジェクトのメンバーで、社内原価の算出に携わった濱田真人氏は、「機械償却費や消耗品・材料、電力などの経費を一覧表に出して、売価と照らし合わせながら設定していきました」と、約1ヵ月で標準原価を算出。もっとも苦労したのはマスターの見直しだった。
導入から約10年が経過していたPrintSpiensのマスターは当時とほぼ変わっていなかった。見直したマスターは約300個。とくに「社員マスター」と「設備マスター」を整理し、退職した社員、すでにない設備を削除することで、小工程の入力時や、履歴の検索時に選択肢を少なくして探す時間やミスを削減した。最も重要な改善点は「工程別収集項目」、「収集設定」、「作業内容マスター」のとりまとめだった。時間コストを設定する際に必要なもので、標準原価の元になる。
濱田氏は約1年をかけてマスターを見直すとともに、ユーザーインターフェイスの改善にも着手。見間違いやすい表記や、混乱しやすい表記を変更した。
「例えば、見積り機能に、“見積管理”という表記がありました。単に“見積り”でいいよねと、全て洗い出して表記を見直し、不要な機能は表示させないようにしました」(濱田氏)。使いやすくすることで、入力作業の効率を上げていった。
改革への一歩を踏み出す
見えてきた意識の変化
見える化プロジェクトは、損益のベストとワーストが出せるまで“見える化”を進め、成果を上げている。ダッシュボードに機械稼動状況を可視化する小森コーポレーションのKP-Connectとも連携した。ただし、完全ではなく、松下社長は、その先の課題をクリアするためにまだ超えるべきハードルがあると強く認識している。まだ入力やマスターの変更・追加が遅れることもある。
同社では毎日、15分間、全員が各自に決められた場所の清掃が義務化されている。業務の一貫として組み入れており、「懸命にきちんとやる」(松下社長)ことがルール。目的はトップの方針に基づき、やり遂げる訓練を重ねること。地道な作業だが、「社員一人ひとりがきちんとやることを、松下印刷の文化として根付かせたい。もちろん人間なので完璧ではありません。それでも、きちんとできる人を増やしていくことが組織としての強さになります。これが数年後、数字として表れるようにしていきたいのです」(松下社長)と、習慣づけを徹底的していく意向である。
社員の数字への意識は少しずつ芽生えている。若手社員からは、「この機械が古くなり、待ち時間が長く、入れ替えればもっとスピードが出せる」などの声も上がってきた。
松下社長は「ようやくスタートラインに立った状況です。数字がなければ社員は頑張りきれません。これから数字で目標を具体化し、頑張った社員に公平に反映できるようにしたいと考えています。やりがいを持つ社員が増えれば会社が良くなります。ゴルフでもそうでしょう。パー4という数字がなければプレーヤーは懸命になりませんから」と述べる。見える化のその先にあるアクションに向けて、改革の手綱を緩めるつもりはない。
株式会社松下印刷 徳島県徳島市応神町応神産業団地5-1