価値を主軸に置き持続可能なビジネスモデルを形成

価値を主軸に置き持続可能なビジネスモデルを形成

 株式会社キーポイントインテリジェンスは7月16日、オンラインで「プロダクションデジタル印刷/POD市場コンファレンス2021」を開催した。コンファレンスの第1部では、キーポイントインテリジェンス アナリストのGerman Sacristan氏が「デジタル印刷市場の動向と予測」をテーマに、印刷機のカテゴリー別に見た今後の市場全体の動きや、モノクロ・カラー機の変化などについて説明した。概要を紹介する。

 月間のプリントボリュームを縦軸に、コストを横軸にすると、トナー式の複合機マルチファンクションは、それほど生産量が多くなく、ランニングコストが比較的割高で、右下に位置している。全世界に於いA44ページ換算で1,373億枚の出力となっている。コピーセンターやクイックプリンター、デザイナー、広告代理店などの比較的小規模な業態で使用されている。

 中規模から大規模のトナー式のプロダクション機は、ページボリュームがA4ページ換算で1,280億枚程度。マルチファンクショントナー機と比較すると、ランニングコストが少なく、機種としては、コニカミノルタのAccurioPress C4080/C4070や、キヤノンのimagePRESS C910/C810、などが該当する。

 最もボリュームが大きく、ランニングコストが低いインクジェット印刷機はA4ページ換算で3,028億枚のボリュームとなっている。導入している事業者は、大規模な商業印刷会社やトランザクション(請求明細)、DMなどを取り扱う印刷会社、大手のオンライン印刷会社など。トータルコストを抑えて操業できるため、スケールメリットを享受することが可能。特に、オンライン印刷会社では価格面を前面に押し出して事業展開している。ページあたりのコストで経済的優位性を持つため、トナーの印刷機で操業している印刷会社への圧力となっている。

 トナーベースのMFP(複合機)で事業展開してきたコピーセンターやクイックプリンターはこの圧力に対し、ジョブを集約化し、大型の機材を使用して生産するアップスケールの手段がある。また、ジョブの集約化が難しい場合は、オンライン印刷会社にアウトソーシングすることで、値段だけで競争するのではなく、よりクリエイティブな印刷物で勝負することができる。例えば、レーザーカットを使用した加工や加飾、より多くの色を使った印刷、QRコードの付与、AR(拡張現実)との連動、NFC(近距離無線通信)を活用するといった付加価値印刷が考えられる。価格ではなく価値を主軸に置くことで、印刷物の今後の成長性や強みが増し、ビジネスモデルとしての持続可能性につながる。

 価値を提供するためには、印刷速度や給紙方式などの狭い範囲のテクノロジーにこだわらず、人材や戦術、そして顧客が求めていることを理解する想像力が重要となる。価値を売っていくために様々な事業者は悩んでおり、そこに救いの手を差し伸べる提案ができるベンダーが今後、成長していく。

印刷機の販売台数から見る

モノクロ・カラーの変化

 2025年までのデジタル印刷機の年間販売台数の成長率は、モノクロ・カラーの双方ともマイナス成長を見込んでいる。出力数はカラーがモノクロを上回るが、デジタル印刷機の市場トレンド 印刷機が大型化していくため、販売台数の面ではマイナスとなっている。

 プリントボリュームで比べると、トナー機は、モノクロが年平均成長率1.2%、カラーが同10.2%で、コロナ禍真っただ中の年を起点としているため、少し高めの成長率が出ている。2019年比で2020年を見ると、モノクロが同28%減、カラーが25%減となっている。インクジェット機は、トナー機と比べて大きく伸び、同13.6%となっている。

 しかし、インクジェット機も従来のようには伸びないと予測している。前提として、顧客は品質、生産性、コストの3つの要素に基づいて購買を決定している。インクジェット機は生産性が高く、ランニングコストも低いが、商業印刷においては品質がそれほどでもないとみなされている。現在では、大型のプロダクションプリンターの中には、高い品質が求められる商業用印刷にも利用できるようになってきている。

 インクジェット機が成長することは間違いないと思われるが、その分の投資が難しい企業も多いため、トナー機も引き続き伸びていくと予想している。ただし、インクジェット機に関しては、コロナ禍の影響が比較的弱く、アメリカで19%減少、西ヨーロッパで23%の減少であったのに比べると、トナー機は両地域で32%減と大きく落ち込んだ。

 印刷機の価格帯別に見ると、トナー方式の複合機では、主にコピーセンターやクイックプリンター使用されている6,000~7,000$ほどのエントリー機や1万$以上のライト機が、コロナ禍によるオンラインでの顧客の増加に伴い大きく落ち込んでいる。

 RICOH Pro C5310/C5300Sや、キヤノンのimagePRESS C910/C810 などがミドルモデル機、RICOH Pro C9210/C9200 や、キヤノンのimagePRESSC10010VP/C9010VP、コニカミノルタのAccurioPress C14000/C12000、富士フイルムのIridesse などがハイモデル機に該当し、ハイモデル機は最も伸びるカテゴリーと見込まれている。

 ヘビーモデル機では、B3サイズにキヤノンのiXやXerox Baltoro、B2サイズにHP Indigo 15K・100K、コニカミノルタのAccurioJet KM-1、富士フイルムのJet Press 750S、KOMORI IMPREMIAIS29などがある。B3およびB2のインクジェットでは、総所要コストが低くなる傾向にあるため大きな伸びを予測している。印刷機自体は高価だが、消耗品などのランニングコストを低く抑えられる。

 具体的な数値を見ると、2019年はアメリカで284台、西ヨーロッパで143台となっている。これら連帳の印刷機は、枚葉機にできない、より大きなロットのカタログや雑誌、書籍、DMなどにところにフォーカスしていく必要がある。

 モノクロの分野については、コンテンツへの影響力が低く、コモディティのビジネスといえる。例えばトランザクションや書籍では、すでに内容が決まっていて、変更を加えることができない。

 一方、カラーは商業印刷、コマーシャル、マーケティングに直結した印刷物で、印刷会社からの提案も可能となっている。プリントサービスプロバイダーとして、ただ単に色を付けて印刷するのではなく、どのようなコンテンツを製作し、戦略を策定するかという部分に関与できる。

 カラーへの移行や、オンラインへのシフトにより、モノクロ分野のロット数は年々減少している。ロットが大きくないと採算が取れない連帳は特に減少傾向にある。また、小ロットはカットシートに移行している。

キーポイントインテリジェンス「プロダクションデジタル印刷/POD市場コンファレンス2021」から

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