佐川印刷 佐川印刷 SAKAWA Digital Printing Factory ~ セル生産でマスカスタマイゼーション

佐川印刷 佐川印刷 SAKAWA Digital Printing Factory ~ セル生産でマスカスタマイゼーション

産業系インクジェット3機種新設

 佐川印刷株式会社(愛媛県松山市/佐川正純社長)は、リコーインクジェットプリンター3機種の導入を機に、愛媛県宇和島市のデジタル印刷専門工場“SAKAWA Digital Printing Factory”(S・D・P)の生産体制をさらに強化した。紙に限らず、布やスチレンボードなど様々な素材を印刷するS・D・Pではデジタル印刷により様々なアプリケーションを生み出していく。

 佐川印刷は1947年に現在の愛媛県宇和島市(当時・吉田町)で活版印刷会社として創業した。従業員は90名。印刷事業をはじめ、Web・IT事業、プロモーション事業、動画事業など多角的な情報コミュニケーションにより地域社会の経済活動を支えている。職場環境の改善も続けており、経済産業省の新ダイバーシティ経営100選や健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を受けている。

 S・D・Pは吉田工場として1969年に開設され、同社の本社機能と生産機能を担ってきた。1990年、同社は松山市の松山本社との2本社体制を敷き、2002年、松山本社に本社機能を一本化。以来、吉田工場は南予地域の需要を中心に、生産のみの役割を果たしてきた。

 同社の佐川正純社長は「本社を松山市に移して以来、この工場では地域の事務的な印刷物を中心に生産してきました。時代の流れとともに、需要があるものの、付加価値も数量も上がらない工場となっていきました」と振り返る。工場の閉鎖も考えたが、吉田工場で勤務する25名の社員の多くが地域社会で暮らす。地元の公民館の館長や消防団員、PTA役員などに携わる社員もおり、工場閉鎖がもたらす地域社会への影響も懸念され、佐川社長は悩んだ。

中央が佐川印刷の佐川正純社長、右からリコーグラフィックコミュニケーションズBUプレジデントの加藤茂夫氏、佐川印刷ソリューション営業支援部部長の一色映志氏、同デジタルプリンティング事業部事業部長兼工場長の山中益生氏、リコージャパンPP事業部事業部長の三浦克久氏

 「工場長の山中が一人で担当していたインクジェットの技術を活かして、デジタル印刷に置き換えようと決意したのが7年前でした」。吉田工場では2006年、大判インクジェットプリンターを導入し、昇華転写による法被やのぼり旗、サイン・ディスプレイの製造を開始。ECサイトや展示会を通して販売し、オフセット印刷以外のビジネスに枝葉を伸ばしていた。「工場を残し、雇用が守れ、付加価値が上がれば給与を増やすことができるかもしれない」と相談した社員たちからは、「やりましょう」という意欲が返ってきた。佐川社長は「すべてを変える」と伝え、オフセット印刷機を破棄し、1,300㎜幅、1,600㎜幅の大判インクジェットプリンターや、リコーのカラーPOD機を導入していった。

 社員の目の輝き方が変わってきたのは、大型のUVフラットベッドインクジェットプリンターとカッティングマシンを設備した頃だった。「それまでの投資の額とは一桁違いました。私が本気だと気づいたのでしょう。社員に気持ちの変化が起こり、新しい工場としてリノベーションできる礎ができました」。今回、新たに導入したリコーのUVフラットベッドインクジェットプリンター『RICOH Pro TF6251』、ガーメントプリンター『RICOH Ri 2000』、1,600㎜幅のラテックスプリンター『RICOH Pro L5160e』はリノベーション一つの総仕上げといえる。吉田工場のデジタル印刷機はリコーのカラーPOD機『RICOH Pro C7200S』を含めて大小12台の体制となった。

リノベーションされた吉田工場

まじめなスタッフが一番の経営資源

 新規に導入したUVフラットベッドインクジェットプリンター『RICOH Pro TF6251』は最速116㎡/時の生産性と、厚さ110㎜までの素材に印刷するメディア対応力を備える。インク構成はCMYKW、プライマー、クリアの構成。主にリジッド系のメディアへの印刷を受け持ち、パネルやPOP、キャラクターハンガーなどを生産している。プライマーの搭載によりインクが密着しにくいアクリルにも対応する。

 ガーメントプリンター『RICOH Ri 2000』は直接布地に印刷することが可能で、ホワイトインクを搭載しており、濃色の生地でも絵柄の色を忠実に再現する。同社ではTシャツのほか、ネックウォーマーやエコバックなどを生産。同社では白糸で刺繍した上にプリントすることで、動物の毛並のような独特の表現を生み出している(特許出願中)。

 ラテックスプリンター『RICOH Pro L5160e』は、水性インクに含まれる樹脂(ラテックス)が被膜を作り、顔料を定着させる。VOC(揮発性有機化合物)が極めて少なく、臭気がほとんどない。ポスターやバナーのほか、塩ビフィルムなどの透明素材への印刷で活用している。

 これらのデジタル印刷機は、印刷する素材や種類によって、『サイン&ディスプレイセル』、『ガーメントプリントセル』、『テキスタイルプリントセル』、『ペーパープリントセル』の4つのエリアに配置。S・D・Pでは一つのセルに1人もしくは少数の社員が従事し、印刷から加工、出荷までを担当するセル生産体制が敷かれている。セルは受注規模に応じて大きさや人員配置を変えて生産能力を可変。また、1人の社員が複数のセルを動かせるため、ジョブローテーションも可能となっている。キーワードは“Print Anything on Everything”。あらゆる素材に印刷していくという熱意が込められている。

上からRICOH Pro TF6251、RICOH Ri 2000、RICOH Pro L5160e

 「プリンターやファブ(デジタル加工機)をロボットとすると、1人のスタッフが5台のロボットを使うイメージです」。これにより多品種少量でも高い生産効率を獲得。大量生産に近い生産性を持ちながら、個別の要求に細かく応えるマスカスタマイゼーションを実現している。

 「ロイヤルティが高く、まじめな社員が当社の一番の経営資源です。彼らはこれまでまじめにドットゲインや温湿度を管理し、印刷物を作ってきました。今は新しいモノづくりにまじめにチャレンジしています」。吉田工場のリノベーションは設備投資だけでなく、社員の意識改革とモチベーションに支えられている。

RICOH Ri 2000によるTシャツとRICOH Pro TF6251による什器(中央)、パネル等の様々な印刷製品

活き活きと働く職場、工場リノベーション

 S・D・Pで生産される製品は主にECサイトと営業活動で受注する。ECサイトには法被やマスク、Tシャツなどの布系製品を扱う『FUNDOショップ』、パネルやPOPなどを扱う『かんばん工房』を展開。利用者はいずれも1個からオリジナル製品を手にすることができる。地元からの受注は1割。残り9割が愛媛県を除く日本全国から集まる。その先には世界を見据える。当面の目標として、デジタル印刷の比率を現在の1割から2割に引き上げる。

 「誰も取り残さないというSDGsの9番目のゴールに、技術革新で開発途上国を豊かにするというターゲットがあります。開発途上国を過疎地に置き換えると、この工場を実現して地域の職場と雇用を守ることにもつながります」

 タレントやテレビ局、大手企業から法被を受注した時には、S・D・Pの社員が嬉しそうに仕事をしていたという。導入してから2ヵ月が経過したリコーのインクジェットプリンターは順調に稼動している。吉田工場はS・D・Pとして社員が活き活きと働く職場にリノベーションされた。

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