谷口松雄堂 日本の心を伝える和風グッズをつくる
和紙の小ロット生産にVersant®180 Press活用
京都市南区の株式会社谷口松雄堂は、和物雑貨をつくるメーカー。色紙製造からスタートし、書画具の製造を中心に発展し、コロナ禍前にはインバウンドも含めた観光ブームの到来で市場が拡大したお土産品等をはじめとする和物雑貨の製造を積極的に行ってきた。その和物雑貨の最新作として制作した風神雷神図のミニ掛け軸と富嶽三十六景・神奈川沖浪裏のミニ屏風が、「国内外向け日本伝統のお土産」として富士フイルムビジネスイノベーションがアジア・パシフィック地域のユーザーを対象として実施するコンテストプログラム「2020年度Innovation Print Awards」(IPA)の、美術作品複製部門第1位を獲得。続いて、第三者機関の主催でメーカーを超えてアジア地域の印刷作品を広く審査対象とするアジア・プリント・アワードでも1位受賞を果たした。デジタル印刷システムを活用した付加価値の高い“ものづくり”について同社社長の谷口主嘉氏と、企画室の長田奈央氏に話を伺った。
IPアワードへの参加で新製品誕生
谷口松雄堂は1925年(大正14年)、色紙をつくる会社として創業し、書画具の製造販売会社として発展してきた。時代のニーズに応じて製造分野を拡大させ、約30年前からは便箋、色紙掛け、ミニサイズの金屏風、仮巻きなど書画具関係のオリジナル製品の製造を行い、全国へ卸販売している。最近では、扇子、御朱印帳、貼り箱など和紙グッズの、OEMによるキャラクター商品なども多数生産している。
特にコロナ禍以前は、インバウンド観光需要の高まりもあり国内外の旅行者の土産品として喜ばれる商品を生産。中でも和紙素材とマッチしたアニメ系のグッズは人気商材の一つとなっていた。IPAを受賞したミニ掛け軸とミニ屏風は、こうした和物雑貨の新商品として誕生したものだが、そのきっかけは2020年の、富士フイルムビジネスイノベーションのプロダクションプリンターVersant®180 Press(以下、Versant 180)の導入にある。
Versant 180の導入は、それまで使ってきたPOD機の代替えがきっかけだった。設備を選択するうえで、Versant 180が長尺用紙(660㎜)へのプリントができることはポイントの一つだったという長田氏。「巻物がつくれるなと思いました。PODの出来る範囲で、OEM対応できる長尺の商材をつくりたいと考えていたからです」。
中でも、「掛け軸は作りたかった商品でした。IPAに参加することをきっかけに商品化しました。屏風はオフセット印刷の案件としてありましたが、オフセット印刷だと使用する紙によって乾かすのに時間がかかるほか、UV印刷ではコスト高になるという課題がありました。さらに加工において色落ちも心配な要素でした。屏風の折りなど色落ちがしやすい部分は一番慎重な作業が必要なところでしたが、PODで生産するとその心配もいりません。巻物についても、果たして巻けるのか?というテストも兼ねて取り組んだのですが、出来ました」と語っている。
IPA受賞作品については、和紙以外の用紙で生産。掛け軸は、表面がパール加工されている用紙に印刷することで金箔のように見える商材になっている。「掛け軸や屏風はPODと相性が良い商材になっています」。また、IPAに参加したことで、PODの新たな可能性や気づきがあったと振り返る。「他の受賞者の作品を見る機会にも恵まれ、どのような機械で何を作っているのかなど得るものが多く、視野が広がりました。新しい動きが作れたらいいなと思っています」と意気込みを語る長田氏。2021年度のIPAへの参加も表明している。
同社では、Versant 180導入の決め手として、トナーの定着率と発色を第一に挙げている。出力後の二次加工が多い同社において、加工後の色の剥がれなどの課題が生産の効率化を遅らせていた。しかし、Versant 180はトナーの定着率も高く、色落ちの心配も解消した。
例えば、便箋の表紙の部分は巻き込み型になるため、巻き込む部分に濃い色を用いると色の剥がれが起きやすかった。しかしVersant 180の場合、剥がれもほとんど発生せず、加工する現場も作業が楽になり、効率が上がっている。色の発色もよく、以前と同じデータでも良いものが出来るようになったと評価を寄せる。長尺などへのサイズだけでなく、薄紙から厚紙まで対応できることから用紙の幅も広がり、製品づくりの幅を広げている。
同社が和物雑貨づくりに採用している和紙は、伝統的な和紙ではなく、和紙メーカーに協力を得てオフセット印刷機に適したオリジナルの和紙を抄造。Versant 180を利用するときもオフセット印刷と同じ和紙を採用しているが、「そのままVersant 180に通りました。うまくマッチしたという感じです」。
「現在、小ロットの商材は、Versant 180で作ることも増えました」と長田氏が言うように、製造の9割が和紙を使用している同社において、和物雑貨の小ロット生産機としてVersant 180が活躍している。加えて、小ロット生産の用紙対応幅が拡大したことで「今までできなかったことが出来るようになりました。これから色々作っていきます」と宣言している。
もともと同社は商品としての本格的な表装・表具づくりも行ってきた企業。そのため高い技術力を持っているが、その技術を、そのまま雑貨製造に応用したのではコストがかかり高額商品になってしまう。普及させる商品づくりにPOD機が生きており、「PODを活用することで、手頃な商材が誕生しています」と語る谷口社長。「一貫して、日本の心“和”を表現し、伝えるものとして、和紙の商材を作っています」と言う。
日本の心を伝える和物雑貨に期待
同社で製造された商材の納品先は、寺社仏閣からお土産品店、一般企業まであり、販売する商品から販促品まで多種多様である。最近ではアニメのキャラクターグッズの製造も増加し、「日本文化を海外に発信できるようなアニメ作品が全国的に流行っております。こうした作品は世界的にもインパクトを与えています。日本文化を題材にした作品は和紙と親和性があるため、和紙素材のニーズがあるのです」と解説する。
またコロナ禍になったことで期待できるグッズも登場しているという。その一つが「書き置きご朱印帳」で、コロナ禍以前からあったもの。観光ブームと同時に、ご朱印を集めるためのご朱印帳ブームが到来していたが、ご朱印を書く人が間に合わないという状況に対応するために誕生した商品。コロナ禍で観光市場が止まったものの、緊急事態宣言解除後の世の中の需要として、直接の手渡しを避ける商材として注目されている。収集好きな日本人にとって、寺社仏閣だけでなく、お城の印、武将の印、乗船印など、全国各地に様々なスタンプラリー市場にマッチする商材として期待を寄せる。
また同社では、よりユーザーに近い、注文のしやすいWebシステムの構築にも取り組んでいる。Webの画面上からオリジナルの和テイストのものを気軽に作れるサイトを目指しており、自分の作品をカタチにする身近なサービスを提供したいと語っている。「なるべく小ロットで対応できるサービスにしたいと考えています。そのためにも受注業務などを自動化していくことが重要だと考えています」と意気込みを語っている。
最近では、YouTubeやTwitter、InstagramなどSNSを活用した宣伝活動も強化し、国内だけでなく、海外も含めた市場開拓に取り組んでいる。SNSを経由して今までにない新しい商品が生まれたり、海外からSNS上で和紙の折り紙が注目され、人気商品になりつつある。「PODを使った業務を行っている会社は多いと思いますが、日本の和のテイストのある、自社でしかできないものをPODで作ることで競争力を保っていこうと考えています。Versant 180を活用して、従来できなかった和風のものづくりをしたいと思っています」と谷口社長は展望している。
株式会社谷口松雄堂 京都市南区西九条東柳ノ内町58