富士フイルムHD 中期経営計画「VISION2030」を発表、収益性と資本効率を重視した経営でグループの企業価値向上へ

富士フイルムホールディングス株式会社(富士フイルムHD)は、4月17日、「中期経営計画」 報道機関向け説明会を行い、2030年度を最終年度とする中期経営計画「VISION2030」を策定したことを発表した。
同社は「VISION2030」の下、収益性と資本効率を重視した経営の推進により、富士フイルムグループの企業価値をさらに高め、“世界TOP Tier” の事業の集合体としてさまざまなステークホルダーの価値(笑顔)を生み出す会社へ進化することを目指す。
特に、成長領域であるバイオCDMOおよび半導体材料を中心に、2024年度から2026年度までの3年間で総額1.9兆円を投資し、事業成長を加速させていくことも明らかにした。

中期経営計画の新ビジョンについて解説する富士フイルムHD後藤禎一社長

「VISION2030」では、2030年のあるべき姿を「収益性と資本効率を重視した経営により、富士フイルムグループの企業価値をさらに高め、世界TOP Tierの事業の集合体としてさまざまなステークホルダーの価値(笑顔)を生み出す企業」と定めた。その実現に向けて取り組むべき重点項目として、①成長投資と収益性重視、②資本効率の向上、③研究開発マネジメント、④投資リターンの確実な創出、を設定し、セグメントごとに適切な戦略を描くとともに、事業ポートフォリオマネジメントを強化していく。

事業ポートフォリオマネジメントでは、市場の魅力度と自社の収益性の2軸で各事業を「基盤事業」「成長事業」「新規/次世代事業」「価値再構築事業」に分類している。
 「基盤事業」・・・ディスプレイ材料、コンシューマイメージング、プロフェッショナルイメージング、オフィスソリューション
 「成長事業」・・・メディカルシステム、バイオCDMO・ライフサエイエンス(抗体医薬)、半導体材料、ビジネスソリューション(DXソリューション)
 「新規/次世代事業」・・・バイオCDMO・ライフサイエンス(細胞・遺伝子治療)、半導体材料(先端パッケージ材料)、エレクトロニクス材料(マイクロOLED用材料、AR/VR用材料)
 「価値再構築事業」・・・グラフィックミュニケーション、医薬品
「価値再構築事業」と位置付けた事業に対しては、新たな戦略を策定・遂行し、「基盤事業」へのシフトを図る。また、バイオCDMOや半導体材料などの「新規/次世代事業」「成長事業」を中心に、前中期経営計画「VISION2023」を上回る1.9兆円の成長投資を実施する。

これらの取り組みにより、2026年度に売上高34,500億円、営業利益3,600億円、当社株主帰属当期純利益2,700億円を目指す。また「VISION2030」の最終年度である2030年度には、売上高4兆円、営業利益率約15%以上、さらに2027年度以降にバイオCDMOで積極投資フェーズから利益獲得フェーズに移行することでROE10%以上、ROIC9%以上を達成することを目指す。

2030年にむけた重点項目について

利益率と資本効率を重視した経営により、富士フイルムグループの企業価値を高めるとともに、世界TOP Tierの事業の集合体として、世界を一つずつ変え、さまざまなステークホルダーの価値(笑顔)を生み出す企業となることを目指す。そのために、新ビジョンでは次の4つの重点項目に取り組んでいく。

①成長投資と収益性重視
市場の拡大が期待され、成長領域であるバイオCDMOと半導体材料へ積極的に投資するとともに、利益率重視の事業運営により、全ての事業の営業利益率10%以上を実現していく。
②資本効率の向上
ROICをKPIとして重視し、投下する資本の効率を上げるとともに、資本政策を組み合わせることでROEの向上に取り組む。
③研究開発マネジメント
事業と近接した領域で、研究テーマの事業化を推進するリソースを増やすとともに、基礎研究では、新事業の創出につながるテーマをより厳選し事業化の確度・スピードを向上させていく。
④投資リターンの確実な創出
2021年に日立製作所より買収した医療画像診断事業の収益の刈り取りと、2023年にEntegris社より買収した半導体用プロセスケミカル事業のシナジー創出を進める。また、バイオCDMOや半導体材料への積極的な設備投資による利益創出を確実に行っていく。

各セグメントにおいては、2026年度をマイルストーンとし、「ヘルスケア」「エレクトロニクス」「ビジネスイノベーション」「イメージング」の財務目標および基本戦略を設定し、進めていく。
「ヘルスケア」とは、メディカルシステムやバイオDCMO、iPS細胞などのLSソリューションといった分野。大型投資を進めていく分野で将来性の高い成長分野として位置付けている。
「エレクトロニクス」についても、半導体材料やディスプレイなどエレクトロニクス材料の分野。地政学リスクを考慮したサプライチェーン網の構築なども含まれている。
「ビジネスイノベーション」については、ビジネス、オフィスに加え、グラフィックコミュミケーションまで含めることで、オフィスから産業分野まで全領域をカバーできる唯一のソリューションパートナーとして事業展開する戦略へと再構築している。特に、アナログ印刷においては、高付加価値の無処理版の拡販に集中し、収益を改善。デジタル印刷では、成長市場である商業印刷のDX化に投資し、顧客企業のデジタルシフトをサポートするデバイス・DXソリューションを展開する。
「イメージング」は、INSTAXやデジカメの事業。INSTAXではユーザー層の拡大、イベントやビジネス需要の取り込みを促進する。デジカメにおいてはXシリーズとGFXシリーズの2ライン戦略を強化する。

脱炭素という社会ニーズを意識、グループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」

なお同社は、創立90周年の節目にあたり、グループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を制定した。パーパスの実現に向けてアスピレーション(志)を持ち、「VISION2030」を実行し、持続的な企業成長を目指す。

また今回の会見で後藤社長は、サステナブル社会の実現に向けた取り組みについても強く言及し、「環境への取組みはグローバルビジネスへの参加資格であるという考えのもと、社会課題に統合的に取り組んでいきたい」と語っている。
具体的に取り上げられた項目には、GHG(Scope1+2)排出削減、炭素効率性の向上、Green Value Productsの創出、水資源の保全、TNFD’低減に準拠した情報開示、自然保護活動への継続コミット、法令に先行したリスク懸念物質の自主的な削減と代替化、環境負荷の削減及び資源循環の促進に貢献する素材とプロセスの開発、新規投入原材料の削減、資源を効率的に利用する製品ライフサイクルの設計などが挙げられている。後藤社長は、「低炭素のビジネスを目指すということ」とまとめている。

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