大日本印刷 高い透明性と導電性を両立した透明導電フィルムを開発、マイクロ波を用いた直径11ナノメートルの銀ナノワイヤーにより、フィルムの高性能化を実現
大日本印刷株式会社とマイクロ波化学株式会社は、マイクロ波の照射によってナノメートル(nm:10-9メートル)レベルを実現した銀の導電性繊維(銀ナノワイヤー)を用いて、高い透明性と導電性を両立した透明導電フィルムを開発した。DNPは、2023年12月に本製品のサンプル提供を開始する。今後両社では、DNPの光学フィルムと組み合わせた各種センサー用途での提供を目指す。
透明導電フィルム開発の背景として、透明導電フィルムは光の透過率が高く、優れた視認性と導電性を両立させており、銀ナノワイヤーが高い導電性や透明性の観点から注目されている。一方でこのような性能は繊維状の銀ナノワイヤーのアスペクト比を高めることで向上させることは可能だが、従来技術ではこれを達成することが困難であった。
この課題に対してMWCCは、銀に直接マイクロ波を照射する結晶制御技術を改良し、結晶を長さ方向に成長させて、アスペクト比の高い極細の銀ナノワイヤーの生産技術を確立させた。本プロセスは選択的に銀ナノワイヤーへエネルギーを伝達しているため、従来法に比べ効率的かつ大幅なCO2削減が可能になっている。
従来、透明導電フィルムでは、一般的にPETフィルムにITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)などの導電性金属酸化物を高密度で均一に薄膜形成するために、真空中での成膜や、さらには高温焼結などの工程を経る必要があった。また、ITO膜はそれ自体に柔軟性がなく、急な温度変化などでは導電部でのひび割れが発生するおそれがあり、加工性や耐久性の懸念もあった。
今回、DNPでは独自のインキ配合とウェット方式による精密塗工技術の組み合わせにより、銀ナノワイヤーを低温で、かつ均一に薄膜形成した透明導電フィルムの開発に成功した。低温成膜により基材の選択の自由度が高まるとともに、繊維状材料を用いていることから、ITOと比較して高い耐久性やフレキシブル性を有している。
さらに、今回開発した透明導電フィルムは直径約11nmの非常に細い銀ナノワイヤーを適用しているため、可視光や近赤外光において非常に高い透過率と低い拡散反射率を実現している。
例えば、シート抵抗が30~70Ω/sq.(オーム毎スクエア :単位面積あたりの抵抗)の範囲において、ITOと比較して高い透明性を維持でき、透明導電フィルムに通電させることで、効率的にフィルム自体を発熱させることもできる。本開発により、LiDARに透明フィルムヒーターを適用した場合、凍結や結露を防止でき、また拡散反射低減により、検出感度が向上した。これにより、寒冷地などでも安全な自動運転社会を実現している。
DNPは、本製品のサンプル提供を2023年12月に開始する。また、DNPが強みを持つ反射防止フィルムや液晶位相差フィルム等の機能性光学フィルムと組み合わせることで、ディスプレイ分野に加え、車両・自動運転用LiDARや通信分野おいても、透明フィルムヒーターや電磁波シールドといった新たな機能を提供する。
また、DNPは、2023年10月4日(水)から6日(金)に幕張メッセで開催される高機能素材Weekの「第14回フィルムテックジャパン(高機能フィルム展)」のカンファレンスで、「大日本印刷の機能性フィルムの現状と将来展望」についてDNPフェローの中村 典永が講演を行い、本製品についても紹介する。