【特別鼎談会】FFGS、ウイズ、モトヤが語る「強い印刷会社になるために」~印刷業には高いポテンシャルがある。覚醒した印刷会社には説得力がある

株式会社モトヤは、6月21日と22日の2日間にわたり、東京本社で「第2弾新商材発掘フェア」を開催した。紙メディアにこだわらず、様々な素材を活用した印刷物づくりへの提案が具体的に提案された。会期中は、富士フイルムグラフィックソリューションズ㈱の前田正樹部長による「強い印刷会社の共通項は?『脱印刷?』、『人財』」が行われた。『強い印刷会社』になることは、生き残りをかけた印刷会社経営の大きなキーワードといえる。『強い印刷会社』になるためのポイントを、富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社(FFGS)広報宣伝部部長・前田正樹氏、株式会社ウイズ常務執行役員・老田歩氏、株式会社モトヤ常務取締役営業本部長・小林正人氏に語って頂いた。

【鼎談会登壇者】(左から)
株式会社モトヤ
   常務取締役営業本部長 小林正人氏
富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社
   広報宣伝部部長 前田正樹氏
株式会社ウイズ 
   常務執行役員 老田歩氏

仮説提案のPDCAを繰り返した先に〝リアル〟がある

小林:モトヤでは今年4月に「新商材発掘フェア」の第1弾を、新しいミマキエンジニアリングさんのショールームで行いました。ミマキエンジニアリングさんのシステムで何が出来るのかを具体的にお見せするイベントでしたが、印刷会社様は「紙」への印刷は得意としていますが、それ以外の素材を使ったビジネスを強化したい、展開したいという思いを感じる機会となりました。そこで様々なメーカー企業様にご協力頂き、各社のシステムで製造できる特殊なもの、新商材となるようなものをご紹介する第2弾のイベントを行いました。新たな市場に挑戦しようと思って頂ける機会を提供したいと企画したところ、125社256名の方にご来場頂けました。
またウイズさんとは約10年間にわたり、一緒に事業を取り組ませて頂いておりますが、そこから感じているのは印刷業界が、マーケティングやITの分野について弱いということです。今後、印刷業もITやマーケティングの分野に取り組まないと、クライアント企業から求められる会社になっていけないのではないかと感じています。そのためにも、ITなどに強い企業に協力して頂き、取り組むことが必要だと思います。

前田:「印刷物」は情報発信の媒体の一つですが、インターネットやスマホなどのデジタル媒体が主流になっています。そこで改めて「印刷物」の価値は何かを考えると、単に配るだけでは価値として認められにくい、だからこそマーケティングやITの機能を持った情報発信媒体としての「印刷物」にしていかないとなりません。マーケティングやITの機能を付加し、情報発信のための「印刷物」を提供していくことで価値向上が図れます。

老田:ITを過信し過ぎるのも良くないと思っています。かつて「印刷物」が担ってきた媒体としての地位は、テクノロジーの発達とともに変化してきました。現在は、様々な媒体が存在し、またマーケットのニーズも様々です。ニーズに合わせて媒体特性を活かしながら、うまく使いこなしていくことで、プロモーション効果を最大化させることが求められます。そのためには企画の段階から入り評価可能な戦略を企て、次に取り組む時に精度を上げるというPDCAが重要になると思います。

FFGS前田氏 「何でもできます」は「何もできない」に等しい

前田:企画の段階から入り込むためにも営業教育や社員教育が必要です。何より印刷業界にはマーケティングとITに通じた人材が不足していると感じます。しかし、最適な人材の獲得は難しいため、自社で教育するしかないのですが、教育方法に悩まれている経営者も多いのではないでしょうか。
強い印刷会社を見ると、人材育成に力点を置き、失敗してもいいからトライすることを大切にしています。ターゲットに対して仮設提案し、当たれば深堀りして、当たらなかったら違う角度から再度トライする。この繰り返しで提案スキルが身についていきます。一朝一夕にはできません。まずトライするというマインドや環境が重要ですね。こうした企画提案ができれば、印刷会社の仕事は増えていくと思います。

これからの印刷会社モデル像(FFGS・前田氏のセミナー資料から)
富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社 前田正樹氏
株式会社ウイズ 老田歩氏

 

ウイズ老田氏 「〝覚醒〟した印刷会社には説得力がある

老田:今、ブランディングや更なる販売促進を目指すとき、資金力を効かしたマスだけで費用対効果が伴う時代ではなくなりました。例えばSNSの活用や地域と連携したイベントの企画展開など、消費者の口コミ等の行動特性を理解したうえで組み立てられた戦略が評価されます。評価可能な戦術による「効果の最大化が図れる合理的なクロスメディア」の時代です。それに伴いサービス提供側である代理店・印刷会社やIT企業も覚醒する必要がありますが、特に印刷業界においては人材育成と評価についての悩みが大きいようですね。人材育成のノウハウがなく、キャリア採用を行おうにも人材の吟味や採用後の正しい評価が行えるか等のお悩みが多く、お手伝いさせていただくことが増えています。
突き詰めていくと、例えば商業印刷の本質的なミッションは「クライアントのプロモーションの成功」であり、美しい印刷物を安く短納期で納品することがゴールではないはずです。その意味では、商業印刷の世界と我々が身をおく販促系IT業界も共通部分が大きいです。かっこいいホームページや高機能なECサイトを作ることがゴールではなく、あくまで最終的な結果として、クライアントの商売繁盛にどこまで貢献できたかが重要な評価ポイントになります。弊社においてもその点をふまえ2015年から事業計画を大きく修正しました。(現在、ブランディング・イベント企画・小売りを展開する大阪府豊中市の㈱マノメイドと地域プロモーションを展開する農業法人である兵庫県川西市の黒川郷入ル㈱をグループ連携し、実証実験や独自のマーケティング理論構築を進めている)
地域特性、競合、ブランドの長短所もふまえどう戦略を組み立てるべきなのか。その戦略はSNSや動画コンテンツ、チラシやポスターなどの印刷物も含めた様々な媒体手段にどう落とし込んでいくべきなのかというところです。

前田:クライアントは、マーケティングがしたい、販促を展開したい、新しいキャラクターを作りたいなど様々なニーズを抱えていますが、Web制作はWebの会社へ、プロモーションはプロモーション会社へという発想です。でも印刷会社であれば、ワンストップで請けるポテンシャルを持っているにもかかわらず、そのことがクライアントに知られていないのは印刷業界の課題ではないでしょうか。
ポテンシャルがある会社だとPRすること、ITやマーケティングに強い会社と一緒に取り組んだり、そのための教育を進めるなどの努力が必要です。これらの事は経営者のミッションでしょう。経営者自らが変わり、背中を見せる『経営者の覚悟』が必要です。難しい時代の中、経営者の役割が重要視されていると思います。変革を推進する会社の共通点は、印刷「だけで」商売するのではなく、「印刷も」情報伝達のツールだというスタンスです。印刷の他にどんな武器を持てばよいかを棚卸し、強みを明確にしている会社は強いと感じます。
「何でもできます」は、「何もできない」に等しいのではないでしょうか。軸になる技術、コアとなるものが明確にみえている会社は変革できている会社だと思います。自社の技術、強みは何か?どうしたら価値に変えられるか?それは経営理念に沿っているか?、という視点をもつことです。
あるパッケージを製造する会社では、担当営業マンが自社の設備のスペックを把握していなかったため、受注した仕様のパッケージしか納品していませんでした。そこで、営業担当者のための自社工場見学を行ったところ、「こんなことまでできるんだ」という気づきが生まれ、付加価値の高い提案ができるようになったとの事です。自社の設備・技術で何が出来るのかを知ることも、強みを理解し、価値提案が可能となり、仕事の獲り方も変わります。

老田:印刷会社が、ただクライアントから頼まれた印刷物を刷るのみの製造業にとどまっては勿体ないです。クライアントの販促を支える活動を継続していくのであれば、印刷製造業の枠を超えITやマーケティングを手中に戦略的サービスを成長させていくべきです。「IT」とはシステム系の業態のことだと思っている方が多いのではないでしょうか。「IT」とは「インフォメーションテクノロジー」の略です。〝インフォメーション〟のテクノロジーなので、当然のことながら、印刷会社・印刷物もその中に含まれていると解釈できます。
ですから印刷業界の市場が縮小傾向に進んでも、印刷物もインフォメーションテクノロジーの一つであると捉えるのであれば、発展するIT業界の渦中で今後何が求められているのか、その一翼として、今我が社は何をすべきなのか(足りないのか)を考えるべきではないでしょうか。そしてすぐに取り組むことが重要です。会社に余力あるうちに始めなければいけません。

前田:余力のあるうちに次の手を打つことは大切です。しかし、変わらないといけないと思っていても、一歩を踏み出す方法がわからないというのも本音として聞かれます。

モトヤ小林氏 「5年先さえ分からない時代だからこそ、変わらなければならない」

老田:変わらないといけないタイミングは色々と感じることができると思います。皆さんもスーパーに行って買い物をしたりすると、スマホ上にチラシやクーポンが飛んで来たり、レジが無人化になっていたりと一消費者として時代の変化を体感することの毎日ではないでしょうか。誰もが消費者のプロなのです。受け取る側の一人に立場を変えて見るだけで、時代が変化していること、必要とされることと淘汰されるであろうことに気付いているはずです。
問題は、印刷業が発注された通りに印刷物を作り、それを納品して、「今回も良い仕事ができた」と満足して終わってしまう場合です。納品後に「あのお客さんのチラシ、今回の反響は?売り上げへの貢献はどれぐらいだったかな?」と印刷物の品質はもとより、その先の成果が気になるようになれば、少し変わるのではないでしょうか。次にクライアント目線で一歩踏み込んだ提案ができないだろうかと考えた時、印刷だけでなくITも使って効果測定をかけてみようと思えれば発想が変わるはずです。

前田:変わるポイントは、クライアントの課題解決に意識を向けていくことにあると思います。よく印刷価格が印刷通販と比較されると聞かれます。しかし、価格について指摘されたら、「その印刷の目的は何ですか」「アウトプットはどうしますか」「作った印刷の効果測定はどうしますか」「次のフィードバックはどう考えられてますか」と聞くことができれば、印刷物に対する見方も変わります。価格以上の価値提案が出来る事になります。印刷物の付加価値についてクライアントに気づいてもらい、一緒に価値を最大化しましょうと投げかけていくことが大切ではないでしょうか。
ITもマーケティングもビジネスには必要ですが、様々なクライアントのニーズをワンストップで受注できるポテンシャルの高い印刷業界が、斜陽産業とか、衰退産業といわれている。それは従来の印刷というものの見方しかしていないからであり、それ以外も含めた新たな印刷の価値へと目を向ける事も必要です。
「印刷」の定義をどうするかという話にも繋がります。

老田:昨年開催した業界イベント「PrintNext2022」にアドバイザーとして参加しました。この時のテーマが「印刷の再定義」です。この時、印刷会社が本気になって、地元企業のブランディングや観光資産のPRに関わりどこまで貢献できるのかチャレンジしてみようという取り組みでした。その結果、「印刷会社さんって、こんなところから一緒に考えてくれるのですね」と評価いただき、その後、顧客化できたり、リクルート面では参加した学生たちが地域活性の取り組みへ遣り甲斐を感じ、入社に至ったなど報告を受けています。時代をとらえて、あらゆるメディアを操り、クライアントと一緒にブランディングや、地域プロモーションを進めている会社となれば、もっと違った評価を受けることになるようです。

前田:経営者の方の中には印刷市場は厳しいし、先が見えない。「だけど印刷が好き」という言葉をよく聞きます。印刷が好きならばもっとアイディアや智恵を出していけるはずです。そこから印刷の定義が広がっていくことに夢を持ちたいと思っています。
印刷業は池の中の鯉であると表現した人がいます。これまでは池の鯉のように誰かがエサを投げてくれるのを口をパクパク空けて待っていればよかった。でも、エサを投げ込む人が減ってきたから口を空けていてもエサがこない。そこでエサを投げる側に回るか、エサをつくる側になりたいという話でした。
成長している強い会社の共通項として、多くのコンテンツを発信してデータ分析し、顧客の価値感を見出していく「コンテンツドリブン」への取り組みがあります。これは、鯉のエサを作っている会社といえます。エサを作る側にまわることができれば、エサを売ることも、エサを撒くこともできる。それを実現するためにも人材です。そのためにも、ウイズさんのようにITやマーケティングを熟知している企業や、情報を持つモトヤさんに相談することも選択肢になると思います。

強い印刷会社のイメージ(FFGS・前田氏のセミナー資料から)

小林:モトヤでは、企業価値向上・改革を目指す商業印刷会社様に向けて、ウイズさんが提供している支援サービス『SIT覚醒化プロジェクト』を紹介しています。同プロジェクトは、改革を必要としている企業に対し、コンサルティング力のある「ウイズ」と、ブランディングやイベント企画などを行う「マノメイド」、地域ブランディングやプロモーションを行う「黒川郷入ル」の3社の力を合わせることで実証実験&マーケット開発などを支援しています。何を、どこからスタートしたらいいのかわからないという企業様に対してサポートできたらいいと思っております。

老田:ウイズではイベント事業を通じて「集客」の研究をしています。例えば、その取り組みの中で分かったことの一つに「印刷物の底力」があります。
地域活性を目的とした数千人規模のマルシェの企画で、「何を見てこのイベントに来ましたか」というアンケートを行った結果、ある特定の条件下で、いまだWebやSNSも敵わない「印刷物の異常な強さ」を認めることができました。IT企業が展開するデジタルマーケティングから見えた「印刷物の恒久的価値」です。印刷会社自ら操る側にまわって頂ければと願います。

前田:今も、営業が毎日顧客訪問している企業は多いと思います。それで仕事が減っているとしたら価値を訴求できていない、気づきも与えていないということです。毎日訪問できるパスをもっているのに勿体ないです。その意味でも印刷業界にはまだまだ伸びしろがあると思います。将来のために、何をするかを考える時だと思います。

老田:市場が成長を続け安定していた時代は資金力がものをいい、また既存優位になりがちでした。しかしインターネットの普及以降、著しく個々の多様化が進み、世の中は急速に変化し続けています。更にはコロナがもたらした社会生活への影響は甚大です。かつて学んだマーケティング論がレガシーになりつつある中、この激動の時代で明日の一手をどう見極めるのかとても重要になってきます。
仮説を立て、検証を繰り返し、伸びしろのある所にリソースを供給し、価値の最大化を目指す。それを実践しつづけた先にリアルが見えます。今はまだ「明日の一歩を一緒に見出していきましょう」で良いのです。今こそ、変わるチャンスだと思います。

小林:日本の印刷業は従業員が20人以下の企業が9割といわれています。そのため大半の企業にIT人材が不足しているのが実態です。改善したくても、人手が足りないという話も伺いますが、他の企業の協力を得ながら取り組めば良いのです。5年先さえも分からない時代です。変わらないといけないということだと思います。

(「プリテックステージニュース」 2023年8月5日号掲載)

関連記事

最新記事